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登場キャラクターがどんな能力を持っているかまとめたページです シェアの参考にどうぞ キャラ名 能力名 簡単な説明 精神攻防 身体強化系 安達 凛 『若返り』 睡眠の度に自身が若返る 2 有馬 雨流 なし 脚部を中心とした全身強化能力 3 市原 和美 なし 約30秒間の間、不死身になる 3 大神 壱子 なし 人狼のポテンシャル解放 2 風間 深赤 光の具足(ロングシャンク) 脚部の強化 4 河越明日羽 魂源力視覚 視覚によって魂源力の存在、生成消耗を知覚する 3 鬼沼 カラス丸 天蜘蛛 魂源力の糸を作り出す 2 鬼沼 雀 人間鉄球 身体強化 2 草壁 藤乃 堅牢 全身が強化されるタイプの身体強化、肉体の頑強さを重点的に強化 3 久留間 走子 なし 全身が強化されるタイプの身体強化 6 小松 ゆうな ジャッキ・アップ 怪力 3 西院 茜燦 『獅子の魂、勇猛なるかな(ライオンハート)』 戦闘時に自動的に発動する超人系能力 2 ショコラーデ・ロコ・ロックベルト なし 不老不死 2 大道寺 天竜 鋼肢(コウシ) 自身の体を硬質化させる - 蛇蝎 兇次郎 未来予測 未来予測 - 滝沢丈 電磁加速 生体電流の増幅と操作 3 竹中 綾里 なし 身体強化 - 龍河 弾 なし 龍への変身 - 立浪 みか なし 「猫」の身体・性能ポテンシャル解放 3 立浪 みき なし 「猫」の身体・性能ポテンシャル解放 3 立浪 みく なし 「猫」の身体・性能ポテンシャル解放 1 田中 敦 筋力増幅(マッスル・ブースター) 筋力の増加 3 伝馬 京介 なし 魂源力の鎧を纏い脚力強化 未設定 堂下 大丞 他者強化 自身以外の生物のステータス強化 - 鳶縞 キリ なし 身体強化 3 二階堂 伊知郎 合体変身 爬虫類と合体する 未設定 二階堂 侍郎 合体変身 鳥類と合体する 未設定 二階堂 叉武郎 合体変身 魚類と合体する 未設定 二階堂 志郎 合体変身 昆虫と合体する 未設定 二階堂 悟郎 合体変身 哺乳類と合体する 未設定 二階堂 睦美 合体変身 両生類と合体する 未設定 二階堂 那菜美 合体変身 植物と合体する 未設定 早瀬 速人 なし 加速能力 - 姫音 離夢 眠り 自己強制睡眠 5 双葉 五月 策士 思考力の向上 1 真崎 春人 癒騎士《ユナイト》 ブレイダーへの変身 1 宮城 慧護 月光 魂源力により武器(刀剣類限定)の性質を強化する 3 三浦 孝和 気操作 魂源力と体力を源にする気を練り、纏わせ素手・器械武術・防御法に使用する 3 結城 宮子 ペインブースト 対象に痛みを与えるのと引き換えに対象の自然治癒力を増幅する 3 四谷 司 見鬼 見えないものを視る能力 3 ラニ なし 全身が強化されるタイプの身体強化 3 渡辺 道程 暗算加速 脳内での計算速度を高める - 超能力系 相島 陸 カットアンドペースト 空間転移 - 逢洲 等華 確定予測 物事の結果を一瞬早く導き出せる - 雨宮真美 タナトス 強制的に自殺させる 10 有葉 千乃 なし あらゆる生き物の精神、思考をコントロールできる 未設定 アルフレド 黒色反応炉(ブラックエンジン) 自身の魂源力の爆発力への変換 7 一番星ヒカル サイコキネシス サイコキネシス 3 一之瀬 勉 リバーサー 強者を服従させる力 1 ヴェイパー・ノック 空間隔離 見えない壁の形成 2 討状 之威 無間の炎熱(ブレイズイグナイト) 銃弾の着弾時に爆発を熾す - エヌR・ルール ザ・フリッカー 分子の分解と再構築 - 戒堂 絆那 黄金吸血樹(ミストルティン) 魂源力侵食 - 笑乃坂 導花 なし 金属の切れ味を強化 - 加賀杜 紫穏 なし 触れている物(生物も含む)の強化 - 風見 悠 空中魂源力波感知 魂源力使用の空中波傍受 4 ギガフレア キス・オブ・ファイア 発火能力 7 鞠備 沙希 『星に願いを』 魂源力のビーム砲。通常では制御不可 1(5) 木戸 祈 共鳴(レゾナンス) 魂源力の強化 4 木戸 叫 共鳴(レゾナンス) 魂源力の強化 4 木根 まね子 左招き 左手で招くことにより人を呼び寄せる 5 木山 仁 「ガナリオン」への変身 なし 3 楠木 巌 なし サイコキネシス 5 久世 空太 光撃(こうげき) 指先から光線を発射する - 熊田みみみ ハッピー・ドロップ 悲しみを飴玉に変えて取り除く - 坂上 撫子 一撃切断 敵を両断する爪を装備する - 桜川夏子 オーバーキルズ 死者を蘇らせ、服従させる 9 笹島輝亥羽 復讐の弾丸(レイジングブリット) 受けたダメージを蓄積し数倍に返す 2 小夜川 嵐子 ラフ・アンド・レディ 異能、ラルヴァの能力などによる特殊な攻撃を物理攻撃に変換する 1 重換 質 質量転嫁〈Mass pressing〉 自分自身の質量を触れたものに押しつける 3 斯波涼一(オフビート) オフビート・スタッカート 掌のみ絶対防御 6 巣鴨伊万里 アウト・フラッグス 死亡フラグ視認、予知 4 スピンドル スピニング・スピンドル 自分の魂源力を物質に浸透させて廻す 4 清廉 唯笑 なし 声を使った簡単な催眠 - 瀬賀 或 医神の瞳(アスクレピオス) 人体構造把握しての超執刀 10 瀬野 葉月 魔女(ウィッチ) 箒に跨ることで空を飛ぶ - 千代 紫 言伝(ことづて) 人語を理解できないラルヴァに言葉を伝えることができる - 豊川 もこ 仙炎招 触れた物の精神力を削り取る『鬼火』を呼び出す 4 天上院 佑斗 パイロキネシスト(発火能力者) 炎を操る - 東堂 蒼魔 同調(シンクロニシティ) 相手に自分と同じ動きをさせる 6 夏目 中也 ペテン 言葉が持つ力を増幅させ、言葉に説得力を持たせる。 - 七転 八起 達磨 不幸な目にあっても回復する - 成宮 金太郎 ザ・ハイロウズ 会った人の総資産と金運を見る - 難波 那美 荒神の手(ゴッドハンド) 対象を握りつぶす異能力 3 錦 龍 なし 空手の技に魂源力を乗せる 2 西野園ノゾミ ウィスパー・ボイス 集団催眠 6 退田 裕穂 なし サイコメトリー 1 博打番長 二つに一つ 確率が0%または100%でない事象の確率を50%にする 5 橋本 恵 念話(テレパシア) 広域に使用可能なテレパシー 6 春奈・C・クラウディウス ザ・ダイアモンド 『対ラルヴァ用イージスシステム』、実態は超広範囲精神感応 8 氷浦 宗麻 なし 自分の半径5メートル以内の物体の動きを止める 未設定 聖 風華 なし 風使い 3 火野 拳児 なし 拳に炎を燈す - 藤森飛鳥&道化師 異能殺し 対魂源力による異能の相殺 7 双葉敏明 栄光と破滅の手(ハンズオブヒーロー) フラグゲット&クラッシュ。ランダム 4 姫川 哀 なし 対ラルヴァ限定の絶対支配 未設定 星崎 真琴 なし テレポート 7 星崎 美沙 なし ヒーリング 6 牧村優子 チェンジ・ザ・ワールド 世界の改変 ? 枕木 歩 電波使い テレパス - 三浦 絵理 なし ヒーリング 3 水分 理緒 なし 水を操作する - 御堂 瞬 なし テレポート 5 皆槻 直 ワールウィンド 自身の体から亜空間への空気の吸引・排出 7 美作 聖 部分加速 一定範囲の無機物の時間を加速する 6 召屋 正行 召喚 あらゆるものを召喚する 未設定 山口・デリンジャー・慧海 魔弾の射手 ラルヴァ殺傷に特化した弾丸を発現させる - レイダーマン レーダー・アイ 危険予知 3 六谷 純子 キャノンボール 超高威力型遠距離物理攻撃 5 八十神九十九 ナンバーズ 視界内の生物の情報を数字で表示 3 椿幻司郎 メモリ・トリッガー 記憶の入出力 3 魔術系 アクリス ナイトメア 『我、命ず』(ジ・オーダ) 本来は精神を束縛する高位魔術 2 伊丹 至子 口寄せ この世ならざる者との交信 - 神楽 二礼 神下ろし 『場』を作って神を召喚する 5 如月 千鶴 なし 氷を扱う魔術師系能力 4 グイード・ヴィルデンブルフ なし 狼に変身する - 暗闇坂 めぐる 狗神様 狗神の召喚と使役 - 柴咲 結衣 柴咲流縛縄術 縄を操り捕縛から絞殺までこなす - 大道寺 功武 沈黙魔術 効果付与よる強度増加 6 高田 春亜 なし 身体に刻まれた文様と踊りを儀式として雷撃を放つ 3 束司 文乃 文章具現化 文章に書かれた事を実際に起こす 3 辻 宗司狼 風魔導師(ウィンドマスター) 風を操る - 覘 弥乃里 位相界の眼〈Ethereal Eye〉 ラルヴァがどこにいるか探知する 8 天道 ユリカ 融合契約 非能力者とマジックアイテムを一体化させる 9 内藤 綾香 符術『縛鎖結界』 符によって相手の行動を制限する結界を作る 5 中島 虎二 『回答は決まった(ファイナルアンサー)』 限定的未来選択、選択肢を間違えない 4 鳴海 麗一 死神化 死神の鎌でのエレメントラルヴァ殺し 6 春部 里衣 猫神様降臨 猫に変身する 未設定 藤神門 御鈴 なし 十二天将を召喚する - 松下 眞理 力場賦与 人間がそれ程苦もない持って行使できる道具に、インスタントまたは恒久的に力を与える 6 松戸 科学 付与魔術 他者の能力をアイテムに付与する 7 瑠杜賀 羽宇 ドールマスター 主であるアラン・スミシーによって稼動している 1(主側は不明) 弥坂 舞 雑踏のサクラ 実体のある幻を生む 未設定 八島 響香 コスプレ コスプレしたキャラの能力再現 2 結城 光太 ストレイト・エピファニー 一定の条件の下で知りたい情報を知る 1 飯綱百 根源堰止忍術 鋼を撃ち込み、異能を停止凍結させる 未設定 超科学系 安達 久 なし 永劫機ロスヴァイセの召喚と操作 5 おやっさん なし バイクに関してのみ常識外の設計&カスタムを行う 6 唐橋 悠斗 匂いつき(スティンカー) ラルヴァ避けorラルヴァ寄せ 1 国守鉄蔵 金剛不壊 魂源力を用いて具現化した日本鎧一式を着装する 7 小石川 青空 透明工房 透明な多脚戦車の維持運用 5 カシーシュ=ニヴィン 電子駆逐艦MDH 電子戦特化のミニチュア艦船を操作 2 工 克巳 鋼鉄の毒蛇(スチール・ヴァイパー) オリジナルメカ毒蛇(ヴァイパー)の製作運用 3 造間改 アセンブラー 「天啓」を受け作っていったパーツから最終的に一つの機械を作り出す 3 周防 キョウジ なし 永劫機メタトロンの召喚と操作 2 時坂 祥吾 なし 永劫機メフィストフェレスの召喚と操作 5 与田 光一 なし 異能者・ラルヴァの魂源力使用メカニズムの解明 5 四方山 智佳 情報集約〈Intelligent Node〉 専用端末でどんな情報でも調べる 4 無能力者・未覚醒者 拍手 敬 なし 発勁 1 菅 誠司 なし 不明。魂源力はそれなりにある 3 未見 寛太 なし 発動した場合「どんなことでも夢オチにする」 未設定 アダムス なし 正真正銘の無能力者 2
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※この物語はフィクションです。作品には暴力的、残酷的な描写を多く含みます。苦手な方はさけてください。 ラノで読む act.2「サディスティック・ハード・ゴア」 ※ ※ ※ 異様な人物が街にいた。 休日で人通りの多い商店街の人込みを、一人の男がフラフラと危なっかしい足取りで歩いている。だが男のその風態は和やかな街並みの中では明らかに異質であった。 男は灰色の背広に、きちんとネクタイを締めているが、まるで頭から血液のシャワーを浴びたように全身が赤く染まっていた。よく見ると彼の身体のあちこちに肉片のようなものがへばりついている。左手でズタ袋のような布を掴んでおり、右手には柄の長い斧が握られている。金属とアスファルトがこすれる音を響かせ、斧を引きずるようにして街を歩いていた。 しかしそんな彼に街の人間は誰ひとり気を止めてはいない。 誰も彼に視線を向けず、まるでそこに存在していないかのように無視していた。 幽霊。 男は幽霊のように存在感が希薄だった。これほどまでに異彩を放つ姿をしていても、誰も彼の存在を認識することができなかった。 ※ ※ ※ せっかくの休日だと言うのに、けたたましい電話の音で起こされたテディは頭を回転させるために煙草に火をつけた。煙草はやはりラッキーストライクだな、と煙を吐きながら呟きながらベッドからもそもそと起き上がる。 休日前だからってスコッチを飲み過ぎた、テディはズキズキとする頭を抱えながら後悔するが時間は戻らない。まさかいきなり呼び出されるとは夢にも思っていなかったようだ。昼過ぎまで眠り、午後からは家でのんびりと音楽でも聞きながら過ごそうと思っていたのにプランが台無しだ。テディは二日酔いの頭を冷やすために、洗面所で水を被ってから支度を始めた。 テディは青色の瞳を隠すようにサングラスをかけた。そしてお気に入りのピンクのパジャマを脱ぎ棄てて真っ黒なスーツに着替え、同じく黒いネクタイをビシッと締める。それが彼の仕事着だ。黒というのは気持ちが引き締まる、というのがテディの持論である。 仕事そのものは構わないが急な呼び出しのため、髪のセットに時間を割けないのが不満であった。宗教画の天使のようにクルクルとしたブロンドのくせ毛が幼いころからのテディのコンプレックスで、くしをかける時間も無く、テディは急いでアパートを飛び出した。 貯金して買った日本車を走らせ、テディは“事件現場”へと急いだ。 現場は双葉島の第三住宅区域だ。そこには大きくて綺麗な家が多く並んでいる。テディはビバリーヒルズのようにセレブが集まっているようなところだなと思った。だがそんな和やかな雰囲気の中で、たくさんのパトカーが物々しく一つの家の前に集まっている光景はやはり異様だった。 「非番のところありがとうございますセオドア・グレアム捜査官。私はこの現場の指揮を任されている課長の的場《まとば》と言います」 テディが現場の一軒家の前で車を止めると、玄関に立っていた一人の刑事が彼の元へと駆け寄ってきた。テディよりいくつか年上だろうが捜査一課の課長にしてはまだ若い。的場と名乗る刑事は爽やかな笑顔を浮かべてテディに軽く頭を下げた。 「堅苦しいからテディでいいですよ。向こうの仲間はボクのことを、ルーズベルト大統領と同じようにみんなテディという愛称で呼びます」 「そうですか。ではテディ捜査官。さっそくですが現場のほうに来てください」 「わかりました。行きましょう。ボクお仕事大好きですから」 おどけるように大げさに肩をすくめ、テディはキープアウトの黄色いテープをくぐり抜けて家の中へと入って行った。 「ボクはまだ事件の概要をよく知らされていないのですが、資料はありますか?」 「ああ、こちらです。私としても今回の事件は胸を痛めています。なんせ被害者は二人ともまだ十四歳の女の子だったんですから」 テディはプリントアウトされた事件の資料を的場から受け取った。そしてその内容を読み、かすかに眉間にしわを寄せる。 「この部屋です」 的場に誘導され、テディは扉の開けられたリビングに足を踏み入れた。その直後襲ってきた凄まじい死臭に思わず鼻を抑えてしまう。 「オオウ。これは……ヒドイですね……」 家族の団らんの場であるはずのリビングは地獄絵図と化していた。テディは現場のあまりの凄惨さに目を背けたくなるが、自分の役割を果たすためには逃げてはいけない。テディはサングラスの奥の青い瞳で部屋全体を見回した。 部屋は真っ赤に染まっている。まるでバケツに入ったペンキをぶちまけたように、目が痛くなるような強烈な赤が部屋を支配していた。 部屋の中心に二つの死体が転がっている。的場が言うように二人の少女の死体だ。 だがそのうちの一つは少女のものかどうか、判断することが難しい状態になっていた。資料がなければそれを人だったかどうかすらもわからないかもしれない。それほどまでに非現実的で、一種のファンタジィを思わせるような光景になっている。 少女の死体は原型を留めていなかった。 今までにも“異能捜査官”としてテディは色んな事件に携わり、酷い死体をいくつも見てきた。アメリカの凶悪犯罪に比べれば日本はどれだけ平和だろうか、そうテディは今の今まで思ってきた。 だがこれはあまりにもあんまりだ。そう思いながらも、テディは死体の元まで近づいた。 被害者のうちの一人、加賀《かが》怜奈《れいな》の死体は下半身だけしかまともな形が残っていない。腹部の中心から上が存在しないのだ。大きな刃物で切断されたように、傷口からは血と臓物がはみ出ていた。体内に収められているはずの腸が引きずりだされており、まだ死後から時間が経っていないためかテラテラとした十代特有の綺麗なピンク色の光を放っていた。だがなぜかそれは途中でぶつりと切れていて茶色の内容物が周囲に漏れていて悪臭を漂わせている。 テディは部屋中に視線を向ける。切り離された上半身は肉片として部屋中に散らばっていた。ミンチ状態になっており、どれがどこの部位なのかもわからない。だが、明らかに部屋に落ちている肉の質量が|足りていない《・・・・・・》ことだけは一目瞭然だった。 部屋に散らばっている切り刻まれた上半身部分が明らかに少ない。だが腕や頭、胴体などの骨は床に落ちている。その骨は肉が綺麗にそげ落ちていて、一見では鳥か何かの骨に見えるだろう。 一体どういうことなのか、テディはしばし思考した。 今までにもこれと似たケースを何度も見たことがある。これは明らかに屠殺の跡だ。 食人嗜好《カニバリズム》。そう考えれば答えは簡単だろう。肉が足りず、骨だけ残されているということは、犯人がこの場で怜奈を切り刻み、生のまま血肉や臓物を食べた――あるいは持ち去ったかという推測が成り立つ。 テディはアメリカで食人衝動による殺人事件の解決に関わったことがある。日本でもその手の事件は少なからずあるし、人を食べるラルヴァなども多く存在する。 だがこれはそんな単純な話ではないようだった。 テディは隣に転がるもう一人の死体に目を向ける。頭をぱっくりと割られ、目を見開きながら脳髄を垂れ流して死んでいる少女は岡本《おかもと》啓子《けいこ》だ。一目で即死と分かる。だが啓子の身体中にそれ以前に受けたであろう暴行の痕が生々しく残っている。 しかし啓子の死体の異常さを際立たせているのは傷痕などではなく、彼女の無傷なお腹だった。 わずか十三歳の啓子の腹部はまるで妊娠でもしているかのように膨れ上がっていたのだ。極限まで膨れているそれは、針でつつくだけで破裂してしまいそうなほどに大きくなっていた。啓子はむしろ本来は痩せている女の子だったはずだ。なのにどうしたらここまで腹が膨れるのだろうか。 テディは手袋を着用し、啓子の口に指を突っ込み、無理矢理開いた。彼女の口の周りは血で染まっていた。そして、口の中に並んでいる歯も、口内そのものが血で溢れかえっている。歯と歯の間には肉のようなものが挟まっているのが見えた。 「何か、気付きましたか?」 少女たちの惨たらしい死体を悼むような目をし、的場はテディに尋ねた。 「……解剖すればすぐわかるでしょうが、恐らく加賀怜奈の死体を食べたのは岡本啓子だと思います」 それがテディの出した結論だった。だがそれは悪夢のような答えだ。 「やはり、そうですか」 的場もその考えには至っていたようで、大きな溜息と共に頭を抱えた。テディも的場と同じ気分だった。資料によるとこの二人の少女は友達同士だったようだ。この家は啓子の自宅だ。両親が家にいることが少ない彼女はいつも怜奈を自宅に呼び、一緒に遊んでいるようだった。恐らく今日も休日と言うこともあり、啓子は怜奈を呼んだのだろう。 それなのに一体なぜ、怜奈の肉をお腹が破裂寸前になるまで食べなくてはならなかったのか。 その理由を知るためにテディは呼ばれた。 「お願い出来ますか。テディ捜査官」 「ええ。やりますよ。これがボクの仕事ですから」 テディはサングラスを指で押し上げながら、わざと軽い笑顔を作って言った。 そして啓子の死体に再び触れ、“異能”を発動した。 電流のような衝撃が指先から脳にまで伝いテディの頭の中に映像が流れ込んでくる。それは啓子が死の直前に見た恐怖の光景だった。 これがテディの異能“ビジョン・クエスト”である。 通常のサイコメトリーとは違い、応用は利かないが、死の直前の壮絶な感情を読み取ることで断片ではなく鮮明な死の映像が対象の目線で頭の中に再生されていく。 最初に見えたのは既に死亡している怜奈の死体だった。その段階ではまだ首を切られて死んでいるだけで、その他の部位は損傷していない。 血塗れの斧を手に持つ男が視界に映った。その男が怜奈を殺した犯人であることは明白だった。しかしテディは「ガッデム」と心の中で悪態をつく。 男は顔を隠していた。ズタ袋のような白いマスクですっぽりと顔を覆っていたのだ。それはさながら幽霊の頭のようで男の不気味さを醸し出している。これでは顔がわからず、犯人を特定することは難しくなった。 啓子は椅子に縛られているようだった。手だけは自由にされているようで、必死に何か抵抗しようとバタバタと手を動かしている。啓子は怜奈の死体を見て絶叫した。だがその時間帯、近所には人がいなかった。壁に防音対策が施されているせいもあり、啓子の悲鳴が外の誰かに伝わることはなかった。 マスクの男は啓子の叫びに構わずに怜奈の解体を始めた。 男は何度も何度も斧で切り裂いていく。最初に切断したのは右腕だった。まるで薪を割るように思い切り斧を肘に打ちつけて切り離した。男はその怜奈の腕を、啓子の目の前――テーブルの上に置いた。 そして男は自分の口のあたりをトントンと指で叩き、ジェスチャーで啓子に伝えた。何度か行為を繰り返すうちに、啓子も彼の意図することを理解し、愕然とする。 「た、食べろってこと……」 小さいながらも、絶望している啓子の声が聞こえた。マスクの男はこくりと頷く。そして、食べなければ殺すとでも言うように、男は斧を振りかざし、啓子が怜奈の腕を食するのをずっと待っていた。 啓子の視線が一瞬だけ怜奈の死体に移る。怜奈の変わり果てた姿を見て、ただひたすら憐れんだ。しかし啓子の胸の奥から、怜奈に対する悲しみ以外の感情が浮かんできたのだ。こんな風に死にたくない。まだずっと生きていたい。そんな気持ちがテディにも伝わってきた。 ごめん怜奈。ごめん怜奈。ごめん怜奈。 啓子は心の中で何度も呟いた。怜奈だけが啓子の心の支えだった。その怜奈は不条理な死を迎えた。啓子は怜奈の死を無駄にしないように、自分は生き残ってこの目の前の|クソったれ《・・・・・》を警察に突き出してやる。そう自分に言い聞かせる。 啓子は意を決したように怜奈の腕にかぶりついた。口内に血の味が広がり、肉の嫌な感触が歯を浮かせる。死のショックで筋肉が凝縮されてしまっている人間の肉は堅く、とても食べられたものではない。それでも殺されないために啓子は必死で親友の肉を食み始めた。 ビジョン・クエストは死者と同じ視点のため、啓子がどういう表情をしているのかはわからない。だが恐怖で歪み、涙を溢れさせていることは容易に想像できた。強要されて、親友の肉を食べなければならない。これほどまでに人間の尊厳を破壊する行為があるだろうか。 次第に精神が啓子の残留思念と同調し、恐怖や苦悶がテディにも伝わってくる。気が狂いそうだった。それでもテディは必死に精神を集中させてビジョン・クエストを続けた。 腕の肉を必死に口の中に詰め込み、吐き気を抑えながら突っ伏している啓子の目の前に、マスクの男はもう一本の腕を置いた。それだけではなく、顔の肉や肩から脇にかけての肉を和えものとして添えていく。 男は“食べろ”とジェスチャーで強要した。 「嘘……もう許して」 啓子は男に懇願した。男は何を思ったのか、啓子の頭を掴みあげ、テーブルに叩きつけた。酷い音が響き、脳が揺らされたように気持ちが悪くなってしまう。男はそのまま部屋の中を物色し、父親の引き出しから工具箱を持ってきた。 「ひっ……!」 男は工具箱から釘と金槌を取り出し、釘を啓子の手の甲に当てた。ひんやりとした鉄の感触がゾクゾクと伝わってくる。 「お、お願い! やめて!」 啓子が叫んだ瞬間、マスクの男は金槌を容赦なく振り下ろした。啓子の手を、釘が貫通しテーブルに打ちつけられる。啓子は声に鳴らない絶叫を上げ、必死に体を動かした。だが男は啓子の顔面を執拗に殴りつけて抵抗する意思を奪っていく。押し黙った啓子に、男は二本、三本、四本と次々に釘を打ちつけていく。文字通り手をテーブルに釘付けにされた啓子は、もう暴れることは無かった。 それからは、男に無理矢理口の中に怜奈の肉を押し込められていった。男は怜奈の服をたくし上げ、怜奈の死体の胸に肉切り包丁の刃先を置いた。男は怜奈の小さな胸の間からへその辺りのラインにそって包丁で縦に裂いた。 男の手さばきは見事だった。骨を避けて綺麗に肉だけを切り離していき、怜奈のお腹にぽっかりと穴が開いた。その中に男は白い手袋をしているその手を突っ込んだ。そして男は引き裂いた怜奈の腹部から腸を引きずり出した。腸は一体何メートルあるのかわからないくらいに際限なく怜奈の腹からズルズルと出てきた。 まるで太い縄のようなそれを啓子の口の中に押し込んだ。それでも生き延びるために、男が満足するようにそれを食べた。腸の中の糞が口内に広がっていくのが耐えられないほどに気持ち悪い。 途中で嘔吐しても、吐瀉物をまた無理矢理飲みこみさせられた。啓子の胃が限界に近づくと、男はキッチンに置いてあったジューサーを取り出した。 ジューサーの中に、腹部から取り出した残りの内蔵や怜奈の眼球を突っ込み、スイッチを入れた。壊れそうな機械音を鳴らしながらジューサーの肉片は液状になっていく。 男は満足したようにジューサーのスイッチを切り、液状化したそれを律儀にコップに移して啓子に差し出した。 啓子に拒否権は無かった。 黙ってそれを飲み下していく。そのまま食べるよりは楽ではあるが、異様な気持ち悪さで啓子の中にある人として何か大事な物が崩れていきそうだった。 次々と人肉ジュースを飲まされ、啓子の腹は破裂寸前に膨れ上がった。異常な腹痛がするが、吐くことは許されず必死に口を抑えるしかなかった。 やがて男は斧で怜奈の胴体を雑に切り離す。上半身の残りも食べさせようとテーブルの上に置いた。だがもう怜奈は食べられないと思った。口に含んでも食道の辺りまで肉が戻ってきてしまっていて、飲みこめず呼吸にすら障害が及んでいた。 怜奈の死体を半分ほど食べさせた後、男はこの“遊び”に飽きたのか、怜奈の死体を切り刻むことを止めた。そしてしばし考え込むようにソファに座りこむ。 もう終わったのかしら。そんなありもしない希望を啓子は持ってしまった。 その予想を裏切るように、男は斧の柄を握った。 「や、やめてよ……言う通りに、た、食べたじゃないですか……」 啓子は涙を流し、パンパンのお腹を押さえながら男に必死に許しを乞うた。だが、男は啓子の言葉に耳を傾けることも無く、あっさりと斧を振りかぶった。 「――――」 断末魔の悲鳴を上げることすらも間に合わずに、啓子の視界は真っ黒になり途切れてしまった。 「オオ、ジーザス! ファックファックファアアアアアアック!」 ビジョン・クエストから戻ってきたテディは大声を上げながら、床を思い切り何度も何度も殴りつけた。 ああ、畜生。なんだ今のは、あれほどまでに理不尽な行為をこの小さな女の子は受けたのか。テディの心は怒りと悲しみで煮えたぎりそうになっていた。予想していたこととは言え、啓子の受けた映像を見ることは辛かった。子供に対してあんなことを出来る人間がこの世に存在することが信じられない。信じたくない。テディはポケットに入れている十字架を掴み、二人の少女が天国に行けるようにと、神に祈りを捧げた。 「お、落ち着いて下さいテディ捜査官!」 取り乱したテディの身体を的場は押さえつけた。そうしてようやくテディは呼吸を整え、申し訳なさそうな顔で謝る。 「ソーリーミスターマトバ……。もう、大丈夫です……」 ビジョン・クエストから帰って来るといつもこうだ。疑似的にとは言え死の瞬間を体験するため、精神が不安定になる。今回のように小さな女の子の死を前にしても、何もできずに見ているだけしかできないのは耐えられない。 あのマスクの男は何者だ。人間とは思えない所業。彼の行為からは何も感じない。主張も、主義も無くただひたすら残酷な行為を繰り返していただけだ。あの男は遊んでいるだけのように思えた。マスクの男が啓子に強要していたのは子供がするようなおままごとのようだったとテディは考えを巡らせた。 「それでテディ捜査官。何か見えたんですか?」 「イエス。見えましたよ。ペンと紙があれば貸して下さい」 テディがそう言うと、的場は部下に指示を出して用意をさせた。テディは血で汚れていないキッチンのテーブルに紙を置いて絵を描いていった。 白いズタ袋をマスク代わりにした、灰色の背広を着ている長身の男。その男の絵を、記憶を頼りにテディは描き映していく。 「犯人はこの男です」 テディは紙を的場に手渡した。その絵を見て、的場の顔が一瞬で青ざめたのをテディは見逃さなかった。的場は深く目を閉じ、重たい口を開く。 「この絵、本当にこいつが見えたんですか」 的場は信じられないという風にテディに聞いた。テディは特に気分を害することなく「その男が彼女たちを殺しました」と伝えた。すると的場はしばし沈黙したのち、その紙を部下たちに渡した。部下の刑事たちもみな一様に的場と同じような反応を示し、戸惑いながらお互いに目を合わせ、同時に一つの単語を呟いた。 「……“K”?」 刑事たちは黙ってしまった。的場も頭を抱えるようにして壁にもたれかかった。 「どうしたんですかみなさん。“K”とはなんですか。この男のことを知っているんですか?」 「ええ、私たちはこの男を知っています。当時を知らない子供たちは|お化け頭《ゴーストヘッド》などというふざけた呼び名をつけていますがね。まさか十年経った今になって、この男が帰って来るとは思ってもいなかった」 的場は口にするのも嫌だとばかりに言い淀んだが、テディに説明をしなければならないと思ったのか、気持ちを落ち着かせるように腕を組んだ後言葉をつづけた。 「Kとは、そのマスクの男のイニシャルです。本名を口にするのも気分が悪くなる。そいつは十年前まで双葉学園の生徒でした。ですがKはある日、本土の精神病院へとぶち込まれたんですよ。そしてあいつはそこを脱走した」 「……なぜKは精神病院に?」 テディが尋ねると、突然的場の表情が一変した。それは怒りの表情だった。さっきまでの爽やかな雰囲気は微塵も無くなってしまった。 「殺したんですよあいつは! ズタ袋のマスクを被りながら自分のクラスメイト、全員を殺したんです! あいつは最悪の殺人鬼なんですよ!」 さっきまでテディを落ちつかせるために冷静でいた的場が、声を荒げてそう言ったことにテディは驚いた。部下の刑事たちもみな暗い顔をしている。Kとは何なのか、これほどまでに刑事たちの心をかき乱す殺人鬼とは何者だろうか。テディはビジョン・クエストで視たあの男のマスク姿を思い出し、ぞっと体を震わせる。 「いや、すいませんテディ捜査官。私が取り乱していては仕方がないですね」 無理に笑顔を作り、的場はがっくりと項垂れた。そんな的場のフォローをするように、部下の一人がテディの耳元で言った。 「テディ捜査官。的場さんのことを悪く思わないでくださいね。俺たちもKのことは思い出したくないぐらいなんです。なんせ、あいつと俺らは同年代で、同じ双葉学園に通っていたんですから……あいつが精神病院を脱走したと聞いた時は、俺たちみんな愕然としました。あんな奴、精神病院に入れるんじゃなくて早く死刑にすべきだったんだ」 部下の刑事も感情的な言葉を吐いた。そこからテディは刑事たちのKへの憎悪を感じることができた。 「いえ、ボクは気にしていませんから」 テディは双葉区のこの刑事たちが学園の卒業生だということを思い出した。彼らはリアルタイムでその事件に遭遇していたのだろうと、テディは想像した。 「私の妹がKのクラスメイトでしてね……。私はKを捕まえるためにここの刑事の道を選んだんですよ」 俯きながら、独り言のように的場は呟いた。再び顔を上げた時には最初のように爽やかな顔に戻り、平静を取り戻したのかテキパキと部下に指示を出し始めた。 「もしかしたら模倣犯の可能性もあるが、当面はこのマスクの男の正体をKと断定し、捜査を進めていく。C班は至急、区の警備を増やして住人たちに危険を呼び掛けろ。それと醒徒会に連絡を入れて事件に対応できる異能者を探してもらってくれ、風紀委員たちにも街の見回りを強化するように伝えるんだ。だが、あいつを見つけてもくれぐれも深入りするなと言っておけB班は聞きこみ、A班はここに残って私と捜査を続けるんだ」 命令を受けた部下たちは一斉に散り、自分たちの仕事に取り掛かった。 「ミスターマトバ。今回の事件、これからボクも捜査に参加します。何か出来ることがあればなんでも言ってください。子供をこんな風に玩具のように殺す人間に、これ以上日の光を当てさせてはいけません。必ず捕まえてやりましょう」 それはテディの本音だった。こんな鬼畜の所業を行う人間がのうのうとしているなんて許し難いことだ。子供は慈しみ、護るべき存在だ。テディは自分が育てられた孤児院のことを思い出していた。年に一度里帰りをし、そこの子供たちと顔を合わせるたびにテディは子供たちを護るために自分が捜査官になったことを思い出す。 「ありがとうございます。後でテディ捜査官にはKの資料を端末に送りますから、目を通しておいてください。特にあいつが持つ“異能”はとても厄介ですから、よく知っておいた方がいいでしょう」 「ラージャ。お互いに頑張りましょう」 テディが手を差し出すと、的場は力なくもその手を握り返した。 つづく トップに戻る 作品保管庫に戻る
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【ある中華料理店店員の悲劇 前編】 この作品をラノで読む 1.中華料理店 大車輪 「はいよ、レバニラ定食あがったよー!」 週末の土曜日、時刻は正午を少し回った頃だろうか安くて美味くはないが量はあるをモットーとした大衆向け、いやどちらかと言えば貧乏学生御用達の中華料理店「大車輪」は今日も大盛況だ。 学食の量では餓えた腹を満たすことが出来ない新陳代謝多目の運動部系学生達が午後への活力を得ようと必死にレンゲを口へと運ぶ様は、本当にここが飽食の国日本だとは思えないほどのもの。 清水の舞台下にいると言われた餓鬼すら引きそうな程にがっついている学生達に食料を提供している俺もまた、そんな一生徒だったりするんだが。 「ああ、畜生どもめ! 俺も腹減ってるってのに何でおまえらに先に飯食わさなきゃいけないんだよ」 空きっ腹を抱えつつ、中華料理特有の火力重視のガスコンロを前にして左手で鉄鍋を振るう。 時折熱されて弾け飛んだ油が左手を容赦なく焼くが、それに関して文句言ってちゃ中華は作れない。 中身が飛び出さないように注意しながら右手のお玉で熱が均等に伝わるようにかき混ぜると、香辛料と素材の焦げる良い匂いが鼻から脳を直撃した。 その途端に恨めしそうに胃袋が抗議の声を上げる。 「ううう、我慢だ。 我慢しろ俺!」 客室にはヒンヤリとしたクーラーの冷気が伝わり、その中で汗を流しながら美味そうに飯を頬張る客達がいる。 それとはまるで対照的に、キッチンの中熱気に包まれて流す汗も乾ききり空きっ腹を抱えながら更に鍋を振るっていく。 ああ、俺は今頑張ってるよなぁ……なんて自分で自分を慰めつつ。 そうしないとやってらんねぇしな。 「はいよー! お次チャーハンあがったよー!」 右手のお玉で鍋をなぞる様に一回転。 チャーハンがお玉一杯に詰まり、そこに皿を被せるように載せてひっくり返す。 そしてそのまま形を崩さぬように気をつけながらお玉を上に抜くと、綺麗に半球状のチャーハンの完成。 うむ、自分の仕事ながら見事な出来だ。 胃袋がまた一度切なそうな声を上げているのがその証拠だろう。 普段ならすぐにホールの奴が引き取りに来るんだが、この盛況ぶりの中こちらまで手が回らないと見える。 入っている注文のうち、自分に割り振られている所での料理が無いのを確認すると。 「……しょうがねぇなぁ」 第一に空きっ腹の目の前に美味そうなチャーハンを置いておくのは俺にとって非常に目の毒であるため。 第二に同じく空きっ腹を抱えつつ俺よりも先に腹一杯になるために待っている客畜生のため。 本音はずっと鉄鍋を振るっていた左手が悲鳴を上げていたから。 俺はチャーハンの皿を持ってホールへと足を向けた。 暖簾のようにキッチンとホールを隔てるようにして掛かっているビニール製の仕切りを右手で払いホールへ出る。 ここは……天国だろうか? 火照った頬を冷やすクーラーの風に感動しつつ、周りを見渡す。 「てめぇ! 俺のから揚げ食いやがったな!」 「あぁ!? 一個くらい良いじゃねぇかよ、おまえも俺の餃子食ったくせに!」 「ばっかおめぇ! 俺はキチンと米とおかずの配分計算して食ってんだよ! あと、から揚げ一個と餃子一個だと単価どんだけ違うと思ってやがる!!」 前言撤回、筋肉至上主義みたいなゴツイ馬鹿どもが似たような話題で盛り上がり(?)つつ飯を貪る姿はまるで地獄のようだった。 つうか、原価数円の違いで喧嘩すんな馬鹿ゴリラどもめ。 口から米粒を飛ばすゴリラを横目に出来たチャーハンを指定のテーブルへを運んでいく。 ああ、さらば俺のチャーハンよ! 「お待たせしました! ご注文のチャーハン満貫盛りでー」 満貫盛りというのはうちの店でのチャーハンのサイズだ。 通常の倍程の量がある、さらにハネで3倍盛り、倍満で4倍盛り、そっからは想像してくれ。 ちなみに倍満なのに4倍盛りだということを知らずに二人前だと思って注文するヤツが週に2,3人は出る。 なんでこんな分かりづらい表記でやってるんだかなぁ。 「早く置いてくださいよ、お腹すいてるんっすから」 ああ、しまった現実逃避してた。で、 「またお前か」 「客に向かってお前とは客商売失格っすね、店長呼ぶっすか?」 「性根の腐った外道巫女めが、悪魔みたいなやつだよお前は!」 「仮にも神道系目指してる人が”悪魔”は無いと思うんすけどねー、チャーハン早く置いてくださいよ?」 こんなヤツに俺の丹精こめたチャーハンは食われるのか…… 奥歯が軋むほどに深く歯を噛み、無駄な労力を使うのは今ではないとすぐに緩め。 僅かばかりの反抗心を皿を机に置く時に多少音がなるように込め、ニヤニヤと性根の曲がりきった顔でこちらを見る一つ下の後輩へとチャーハンを差し出した。 俺の名前は拍手 敬(かしわで たかし)、苦学生である。 実家が傾きまくった地方の神社で、跡継ぎになる為にここ「双葉学園」へと勉学に励むため上京してきた。 京都の方にも良い学校はあるのに何故東京にまで出てきたかと言うと、非常に面倒なことに俺が魂源力と呼ばれる物を僅かながらでも使うことが出来るかららしい。 あまりに田舎なせいか、高校に入るまで一度も検査を受けなかったのが発覚が遅れた理由らしい。 そりゃ、故郷の村には病院どころか小さな個人の診療所が一軒あるだけだったしな。 魂源力とやらがある学生は優先的に「双葉学園」へと集められ、能力を伸ばし、鍛錬し、あるいは普通の学生と変わらぬ学生生活を送る。 が、当たり前だがそんな生活にも当然金が必要となってくるわけだ。 衣は学生服が支給されるので問題ない、食もまぁ学食のチケットがほどほどには支給される。 問題は住とその他の雑費と学食で足りない食費だ。 生徒数の多いこの学園では裕福な生徒は月にそこそこの金を支払って寮に入る。 個室で割りと良い感じの寮だ。 対して金の無い学生が入るのが通称スシヅメと呼ばれる狭っ苦しい数人で一部屋の共同寮である。 こっちに来てすぐの時にバイトもせずに勉学に励んでいたら、あっさりと金が尽きて共同寮に落とされた事がある。 なんていうか、その、地獄だった。 何で連中裸で歩き回るんだよ! ちょ、パンツからキノコが生えるってどういうことよ!? 今でも鮮明に思い出せる、あの腐海のような住処。 ええ、それはもうトラウマが残るくらいに。 それ以降は故郷の知り合いからのツテで今いる中華料理店でバイトさせてもらって何とか元の学生寮に戻ることが出来ている。 学食で足りない分の食事もまかないとして食わせてもらっているし店長様様だ。 そして、目の前で俺の魂のチャーハンを美味そうに食ってる外道。 神楽 二礼(かぐら にれい)、高校一年で一つ下の後輩だ。胸がでかい。 一度も染めたことが無いだろう黒のストレートヘアーを腰の後ろの辺りで赤いリボンを使って留めている。 よくある巫女さん御用達の髪型だ。それもその筈、俺と違って都内のそこそこ有名な神社の跡取り娘で本職の巫女らしい。顔も綺麗と言うよりは可愛い部類に入るだろう、黙っていればかなり人気が出そうな外見をしている。胸もでかいし。 しかし、そんな外見とは全く逆で内面は恐ろしいほどの性格の悪さ! バカだろうけど、こっちが悔しいが同じくらいバカなので程度が合うのか俺の堪忍袋の尾を何時も程よく刺激してくれやがる。 入学早々に風紀委員長に憧れたとかで、現在見習いとして日々木刀を振るっては被害者を出している。 仮にも巫女としてそれはいかがなものか、と一度注意したのだが。 「大丈夫、刃物じゃないからセーフセーフ」 と笑顔でのたまいやがった。 きっとこいつは人を殴るのが大好きなドSか何かなのだろう。 あまりに見かねてその後、 「神道は別に刃については禁止されて無いぞ、あと人はそんなもんで殴ったら死ぬだろ。 というか巫女として、いや人としてどうよ?」 と言ってしまったのが運の尽き。 我ながら変なやつに関わってしまったと思う。胸はでかいが。 それ以降、俺が僅かでも神道から外れたような行動を取るたびに、 「神道に関わるものとしてそれはどうなんっすかねー?」 と意地悪そうに笑いながらこちらを注意してくる悪魔になりやがった。畜生め。 不意に、腹がまた軽く鳴いた。 そりゃ目の前であれだけ美味そうに飯食われちゃこっちの腹も減るわなぁ。 次の注文も入っているようだし、馬鹿は勝手に飯食ってろとキッチンに向かって踵を返そうとしたが 「あ、ちょっと」 「チャーハン運んだだろ、何か追加注文でも?」 「スープ、付いてる筈なのに持ってきてもらってないんすけど?」 ぐあ、と思わず口から声が漏れた。 うちのメニューは米系にはスープが無料で付くのを忘れていたのだ。 振り返った先では、頬にチャーハンのものとみられる米粒をつけながら外道巫女がニヤニヤとこちらを見上げていた。 壁に備え付けられた古ぼけて、中華料理店特有の油で少し黄ばんだテレビが午後二時を告げてきた。 客足もようやくまばらとなり週末特有の忙しさもどうやら過ぎ去ったようだ。 ホールの方を見渡せば僅かに客はいるものの、空席が大半を占めている。 さっきまでここで飯を食っていた連中は今はお日様の下で思う存分汗を流していることだろう。気持ち悪ぃ。 従業員用のロッカールームで油の飛んだコックスーツを脱いで制服に着替える。 余った材料で勝手に作った自分用の賄いをもってホールへ足を進めた。 今日のメニューは俺特製具の少ないチャーハンと火力の調整を誤って少し焦げた野菜炒め、残ってたスープにサラダ。 貧乏学生が食うに相応しいメニューだ、泣けてくる。 しかし、チャーハンは俺が丹精こめて作った一品だし余り物ゆえ無料で食える。 無料、うん、素晴らしいことだ。 店は余り物の処分に困ることは無いし、俺の腹も膨らむ、飯代もかからない。一石三鳥だ、全く持って素晴らしい。 まだホールとキッチンの境部分にあるカウンターで鍋を振るっている店長に一言挨拶を入れて適当な席へと座る。 午前の授業の4限目を自主休校として鉄鍋を振るっていたせいで、ずっと腹が鳴り続けている。 正直今なら白米をおかずに白米を食うことも出来そうだ。 とりあえず、喉の渇きを潤すために水を一口。割り箸を手にとって、さぁいただきまー 「あれ、今からご飯っすか?」 顔を横に向けると、外道巫女が美味そうに冷えた杏仁豆腐を口に入れながらこっちを見ていた。 固まるこっちをよそにレンゲで白い杏仁豆腐を切り分け、掬い、口に運ぶ。 「んー、やっぱここの杏仁豆腐は美味しいっすねー」 本当に美味しそうに食うなこいつは。 それに、うちのはアーモンドエッセンスじゃなくて本当に杏仁使ってるちゃんとした杏仁豆腐だからな。 そこらのスーパーで売ってる紛い物と一緒にされちゃ困る……って、 「なんでお前まだこの店にいんのよ? チャーハン出してからもう1時間半以上たってるじゃねぇか」 「風紀委員の仕事としてこの地域を軽く一周してたらデザートの杏仁豆腐食べ忘れてたから食べにきただけっすよ。 何? もしかして、仕事終わりを待っててくれたとか思ってるんすか? もてない男は想像力が逞しいっすねー」 食べ終わった器を軽い音を立ててテーブルに置くと、腕組んで恐ろしく自分勝手なことをのたまいやがった。 無駄にでかい胸がさらにでかく強調される。ちくしょう、俺の中では今の順位は性欲よりも食欲なんだ、誘惑すんな。 「そんな事更々思ってないわ、この性悪巫女が! ……いただきます」 故郷の母さん、俺、少しだけ嘘つきました。 神道主義だからって、肉食えないのはつらいよなぁ……なんて思いつつ肉の入ってないチャーハンの最後の一口を咀嚼する。 肉は入ってないが、その代わりに豚のラードを使っているから香りだけなら普通のチャーハンと変わらないんだけどな。 皿に米粒一つ残っていないことを確認すると、すでに置いてあった箸の横にレンゲを並べ水を一口。 「ごちそうさまでした」 両手を合わせ体の一部となってくれる食物に感謝の言葉を述べ、油物を口にした時特有の喉の渇きから改めて水を一口啜る。 「で、おまえさん何してんのよ?」 キッチンに持っていく為に食器を重ねながら何故かテーブルの向かいで頬杖突きながらこちらを見ている後輩に問いかける。 面倒くさいとは思うがどうせついでだと、向かいにある杏仁豆腐の皿をとってこちらの食器の上に重ねた。 「何って、隠れて肉食ってるか確かめてやろうと思ってただけっすけど?」 「最悪だなお前! そういう自分は細切れチャーシューたっぷり入ったチャーハン食ってた癖に!」 「うちの神社は肉食禁止じゃないから問題ないっす」 「くそっ半端に古い実家がうらめしい」 150年くらい前に肉食が解禁されてそれ以降に出来た神社は肉食OKだったりする。 この肉食巫女の実家は分社した時に解禁したそうで、肉食ったからそんなに胸でかくなったのだろうか。宗教豆知識だね。 キッチンに食器を運ぼうと腰を上げたら、店長が話しかけてきた。 「おーい、敬よーう」 「あ、はいおやっさん何ですか?」 「客もひけたしちょっとタバコ買ってくらぁ、店番頼んだぜぇ」 「あい、分かりましたー」 独特のダミ声を響かせながら店長が店の外へと出て行く。 他の店員達も昼の休憩に入ったり上がったのだろう。 ふと見れば何時の間にやら店内に残っているのは俺と二礼だけのようだった。ああ、二礼=外道巫女な。 「おまえさん、パトロールとやらはどうしたんよ?」 「暑いからこんな時間に外出たく無いっす」 俺がキッチンに向かった為か、土曜の午後のつまらないバラエティーを垂れ流すテレビに視線を向けてぼーっとしている二礼が応える。 確かに外の気温は上がりっぱなしで何もしないで日陰にいても汗をかくだろう。 でも、それとこれとは別だ。 「おい、それで良いのか風紀委員」 「まだ見習いっすからねー、特権特権」 いや、普通は見習いこそ昇格目指して頑張るものじゃないんだろうか……? 釈然としない気持ちを抑えつつ、流しの中、水の張ったタライへと食器を放り込んだ。 2.双葉研究所所属運搬トラック 目が覚めたとき、ソレは暗い箱の中にいた。 下からは軽い振動と人工物が奏でる音が聞こえてくる。 ソレは単純な思考しか持たないため、今の自分の状況を把握するなんて出来なかった。 ただ、自分の身が何か良く分からない物で動けないようにされ、光も通さない箱の中に入れられているというのは分かる。 軽く身を捩るが、戒めはびくともしない。 二度、三度と体をゆする。動かない。 四度、五度と体をねじる。動かない。 六度、七度と体をゆらす。動かない。 この時点で単純な思考しか持たないソレは、我慢の限界に達していた。 自分を束縛する現状に不満しか持たなかった。 しかし、なんという偶然だろうかソレが怒りに任せて体を捻ったのと同時 箱の外ずっと続いていた軽い振動が不意に大きな振動となり重なった。 ピシッ 暗い空間に響く僅かな音と共にソレを束縛していた戒めの一部に亀裂が走る。 それを見たソレは大きな目を歪ませて笑った。 学園都市双葉区へと繋がる唯一の橋をトラックが進む、サイズは何処にでもありそうな2t程のトラックだ。 背部、銀色に鈍く光るコンテナには鮮やかな緑で描かれた双葉の若芽の上に「双葉研究所」の文字が黒で書かれている。 表向きはただの科学研究所のようなものだが、その実人類にとっての脅威となりえる存在「ラルヴァ」を解析、解明して少しでも有利に被害を減らすことを目指す研究機関である。 そこへと向かうトラックの荷台に積まれた物、それはとある遠方で捕獲され研究のために輸送されるラルヴァそのものだった。 特殊な薬液で眠らせ固定し、慎重に慎重を重ねて運ばれるべきものだったのだが。 運搬を続ける方はあくまで一般人なのだ、これは異能者に低年齢の者が多く車を運転できる年齢に達していないものがほとんどだという事が理由として挙げられる。 そして、一般の「人」である以上どうしても完全ということはありえなかった。 遠方の地方都市から都内にある双葉区への運送、しかも荷物は凶悪なラルヴァとあれば普段よりも集中せねばならない。 結果、精神を擦り切らせながら二交代制で運転を代わりながらベテラン運転手と中堅まであと少しというほどには技術を磨いた若手が何とかここまで運んできたのだ。 ようやく着いた人工島、思わずハンドルを操るドライバー達にも気の緩みが出ていたのだろう。 そこに偶然に道路の未整備部分、深さ10cm程の舗装の切れ目をトラックが走ってしまったのだ。 車体が激しく上下した。若手ドライバーの運転ミスである。 「馬鹿やろう! 気を抜くんじゃねぇ!」 ベテラン運転手が後部のコンテナの中を確認すべく座席裏の格子窓から様子を探る。 ……大丈夫、異常は無い。 コンテナに積まれている厳重注意の一辺が50cm程の気味の悪い箱はピクリとも動かずに鎮座している。 思わず背を伝った冷たい汗に、知らずの内に止めていた息を吐き出す。 あの程度の揺れで壊れるわけは無い、そう納得する。 今までも似たような段差を踏んでの衝撃はあったんだ、今回も大丈夫だろう。 助手席から外を見渡すと週末の午後だからだろうか、普通の車よりも高めの窓からは街を闊歩する学生達が見える。 後少し走れば目的地の研究所だ、今回も無事荷物を運ぶことが出来た。 ラルヴァの存在自体は機密になっているが研究所の職員である自分達も運んでいるものの危険度は理解している。 自分の年齢を考えるともうそんなに何度もこの仕事を行うことは出来ないだろうと考えながら、ふと、運転席の方に目をやってベテランは目を疑った。 運転席の計器の中、定期的に操作して打ち込まなくてはならない薬物が運搬物に打ち込まれていないと警告が出ていたのだ。 一体何時からだ!? 再度ベテランの背中に冷や汗が走る。 前回は自分が捜査し打ち込んだはずだ。 時間を逆算する。 既に打ち込まなくてはいけない時間を15分は回っていた。 マズイ、何がマズイのかは分からない。 ベテランとはいえ荷物はヤバいものとしか説明は受けていない。 だから、この薬物を打ち込まなかった場合どうなるかも当然聞いてはいない。 自分達はただ「指定されたものを指定された時間までに指定された場所まで運ぶだけ」なのだから。 その際に薬物投与を行うという事と手順の説明だけを受けて、運搬しているのだ。 そして長年の経験と背を伝う冷たい汗から自分がどれだけマズイ状況下にあるのかを咄嗟に判断し。 若手を叱る時間すら惜しんで、震える手で薬物投与の手順を打ち込み叩きつける様に最後のボタンを押し込んだ。 …………大丈夫、背後のコンテナからは異音は一切発せられていない。 急に慌てて操作盤をいじりだしたこちらに驚いた顔を向ける若手を睨み付けながら大きく息を吐き出した。 こいつは研究所に到着したら何発かお灸を据えてやらなければなるまい。 念の為、目視での確認と精神的な安堵を得るためにもう一度コンテナとを繋ぐ窓に手をかけ開く。 目が合った。 格子窓越しに、こちらの顔との距離は僅かに50cmも無いだろう。 黒い何かがその格子窓のほとんどを占める大きな目でこちらを見ていた。 「キシィィィィッ」 口のようなものが見当たらないのに何処から音を発しているのかは分からない。 とにかく、ベテランがそれを目にして出来たことは……叫ぶことだけだった。 自分の理解の範疇を超えた何かにこちらを見据えられ、全身の毛という毛が浮き立つ。 若手が何事かとこちらを向いて、同じように何かに見据えられて叫び声を上げる。 結果、ハンドル操作を誤ったトラックは道を外れ。 中華料理店へと正面から突っ込んでいった。 3,崩壊した中華料理店 ふと目を覚ます。 ……目を、覚ます? いやいやいや、俺さっきまでキッチンで洗い物を終えて、それが終わったから二礼が杏仁豆腐もう一個くれっていうから「太るぞ」とか「営業時間外なんだけどなー」とか思いつつ結局もう一度キッチンに向かうことになって。 作ってるところを見たいっすーとか言いながら恐らく、いや絶対その本心は杏仁豆腐の分量かさ増しを狙ってキッチンに入ってきたであろう外道巫女との無言のバトルが繰り広げられていたはずでーって、 「う、うええええ!? うご、ゲッホゲホ」 何時の間に寝たのかも分からない、とりあえず埃だらけになった体を払って身を起こす。 狭い筈の店内は見える範囲は粉塵と瓦礫の山、そりゃ変な声も出るわ。 あと、空気悪すぎだ。ちょっと口あけただけで喉が砂っぽい。 とりあえずの応急処置としてハンカチを口に当てる。 配電線が切れてるのか、外はまだ明るい3時前だっていうのに舞い散る埃のせいか視界は薄暗い。 電球が割れているのだろう、時折電気が弾ける音に混じって狭い視界の向こうから小さく光が見える。 程近い場所では水道管が破裂したのだろうか、水が跳ねる音も聞こえる。 何があったのか、いや「何かがあった」んだろうけど見当もつかん。 視界が悪すぎて完全に手探りで進まないとどうしようも無い。 とりあえず、変な破片で手を切らないように慎重に辺りを探る。 数回空を切った手が、何か柔らかいものに触れた。 指を押し込んでみる……ふにふにとして柔らかい。 OK、落ち着け俺。 目が覚める前、俺の近くには誰がいた? 応えは簡単、あの胸と態度だけはでかい外道巫女だけだ。 つまり! この手が! 触れているのはーっ!! 「う、うぅぅ……」 瓦礫の中で響く低い唸り声。 誰、このおっさん。 年の程は50くらい割とガッチリとした体形のおっさんの、しかし年の衰えは隠せない二の腕を俺は揉んでいた。揉んでいた。 「泣きそうだ」 俺の期待していたのは、もっと! もっと! 違う神秘的な物だったはずなのに! 酷いよ神様! まぁ、嘆くのは後にしてこのうつ伏せに倒れこんでいるおっさんをどうにかしないと。 とりあえず謎のおっさんをうつ伏せから仰向けになるよう引っ繰り返し、両脇に手を入れて上体を起こさせ抱きかかえる。 おっさんがこっちの首に両手を回すような形になった。 ちくしょう、何が悲しくておっさんなんぞを抱きかかえなきゃいけないんだ。 もし視界がハッキリとしていて、今の状態を見ることが出来るならおっさんと俺の熱い抱擁シーンが見て取れるだろう。 ……本気で泣くぞ俺。 目の端が潤むのはきっと粉塵だけのせいじゃない。 おっさんの位置が安定するように数回揺すり、頭の中で店の間取りを思い出すと店の入り口よりも近い裏口へと向かう。 キッチンからだと数メートル普段だと数歩の距離が、重いおっさんと視界を埋め尽くす粉塵のせいでかなり遠く感じられる。 一歩、一歩、確かめるように後退する。 自分の体重よりも間違いなく重くて背も高いだろうおっさんを胸に抱きながら前進は無理だ。 背負った方が良いのかもしれないが、何の補助も無く気絶中のおっさんから手を離すとどう考えても地面に頭をぶつけるだろう。 初めに抱き上げた時に抱き起こすんじゃなくて背負うべきだったよなぁ、これ。 今更言っても遅いんだけど……ああ、息が上がる。 ただでさえ、体力は何とか人並み程度なんだ。人一人抱えて歩くとか無理すぎる。 頭がぼーっとしてきたところで、背中が固いものに触れた。 なんとか振り返ると見覚えのある鉄製のドア。裏口だ。 おっさんごしにドアノブに手を伸ばし捻る。 「くっ! あれ……? ぐっ!!」 おかしい、押して開けるはずのドアが開かない。押しても引いてもうんともすんとも言わない。 引いても開かないのは当たり前だっつうの。 結論から言うと、この惨状の衝撃を受けたのか歪んだ裏口のドアは壁に嵌りこみ開かなくなっていた。 おいおい神様、俺あんたの為に肉も食わずに頑張ってるってのにこの仕打ちかよグレるぞチクショウ。 今から表に回るか? 冗談、近い方の裏口にくるだけで肩で息してる状態だってのに今更表に回るなんて無理無理。 じゃぁ、どうするか? 「まぁ、出来ることをするしかないわなぁ」 おっさんが頭を打たないようにゆっくりと下に降ろしていく。 幸いなことに足元に瓦礫は少なく、中華料理店ゆえ油ぎってねとねとする床がおっさんの頬に触れる。 気絶していても気持ち悪いのか唸るおっさん。やかましい。 粉塵が舞っているので、大きく息を吸うのは無理。 正直余りやりたくないけどしょうがないよな。 制服、ブレザーの首元を緩めて肌と服の間にある僅かな空気を吸う。 「うぇ、自分が原因とはいえ汗臭ぇなやっぱり」 だけど外の空気よりかは幾分マシだ。 吸って、ゆっくりと息を吐くを数回繰り返すと息の乱れも収まった。 首元に添えていた両手を離して、手のひらが下になるようにして腰の前へと持っていく。 息は吸ったままだ。 そしてゆっっっくりと腹の下、丹田と呼ばれる部分にあたる場所へと意識を集中しながら吐き出す。 吐く息とともに丹田から何かが湧き上がってくるイメージを持て、故郷の師範の言葉が頭に思い出された。 湧き上がった何かが全身に浸透していくのを感じつつ、下に向けられていた手のひらをそっと開かない鉄扉に添える。 次いでイメージするは螺旋の動き、足の指、足の裏、足首、膝というように全ての間接の動きを連動させる。 動きは腰を通り、背骨を抜け、肩を経由し、肘、手首、そして手のひらへー! 「ハァッ!!」 渾身の勁が鉄扉に叩き込まれる。 同時、鈍い音を立てながら開かなかった扉は止められていた蝶番を引き剥がすようにして店の外側へと弾け飛んだ。 鉄扉が発頸の衝撃で歪んだまま動き回り、あたりに鉄が硬いものに当たった時にあげる特有の甲高い音を撒き散らす。 発勁を打った後の残心をときつつ、裏路地に顔をだす。 新鮮とは言いがたいが、汗臭くも粉塵が舞っている訳でもない空気は美味かった。 「あー、今更だけど誰もいねぇよな?」 聞きつつ路地裏を見渡すが、特に人影は無い。 普段からそんなに人通りのあるような道では無いし、こちらも緊急時だったとはいえ鉄扉が当たった人がいたら傷害事件に成りかねない。 「誰も……いないな」 よし、とひとりごちてから粉塵が外へと逃げ出す裏口を再度くぐった。 体の中から何かが抜けるような、虚脱感を感じつつ倒れたままのおっさんを引き起こす。 発頸使った後はいつもこれだ。だからこそあんまり使いたく無いんだが。 とりあえず、いくらか離れた位置に壁にもたれ掛からせる様におっさんを座らせると裏口に戻る。 中にはいけ好かないが巨乳の外道巫女が倒れている可能性があるからだ。 「よし、もし気絶してたら揉みしだこう」 それで良いのか神道。いや、おっぱいは崇高なものだ。 きっと神様も納得してくれるだろう。 自分でも勝手だとは思うが相変わらず細かい粉塵が飛びまわる空間に戻るんだし、それくらいの役得はあっても良い筈だ。 しかし、とドライアイスを水につけたときに出る煙のように路地裏に出てくる粉塵を見てふと思う。 大分古い建物だけど、昔問題になった石綿(アスベストとかいったか?)じゃねぇだろうな? いや、この島出来たのそんなに古くはないからこの建物の見た目が古臭いだけか。 ……深く考えるのは止めておこう。 入ってゴールまでいけばおっぱいが待っているんだから。 「待ってろおっぱい!」 己に活をいれるようにして叫ぶ。 うん、これは良い。 人間目的意識が無いとダメだなやっぱり。おっぱい! 「何を卑猥な発言してるんっすか、風紀委員として逮捕しますよ?」 「……うぇ?」 粉塵の中から出てくるのは見慣れた外道巫女。 埃に塗れて何時も手入れしてそうな綺麗な黒髪は汚れ、頬には埃が汗に溶けたのか黒い汚れとなってこびり付いている。 その肩にはさっきのおっさんと同じ作業服を着た30くらいの男性が寄りかかっていた。 こちらもおっさんと同じで気絶しているようだが、担ぐのに楽になるようにするためだろうか。 男性の左手が二礼の肩を通り、力が抜けたその腕がおっぱいの上に乗っかっている。 「てめぇ! それは俺のもんだぞ!!」 「訳分からないこと言ってないで、男なんだから手伝ってくださいよ!」 ああ、何時もの「~っす」が無いってことは大分疲れてそうだな。 さすがに俺も反省、ていうか発勁の為の錬気呼吸と粉塵の中おっさん担いで頑張ったせいでちょっと脳がおかしくなってるのかも知れん。 二礼と二人がかりで男性をおっさんと隣り合うように座らせた。 二人とも気絶しているだけのようだ、擦過傷での傷や打撲はあるようだが骨折や致命的な傷は負ってない。 「さて、とりあえずはこれで良しかな?」 「そうっすね、とりあえず現状把握しないといけないっすから行くっすよ」 マシな空気を吸って体力が多少回復したのだろうか、何時もの口調に戻った二礼が言う。 あれ、今何か聞き捨てなら無い言葉を耳にしたような…… 「は? 行くって何処へ?」 「寝ぼけてるんすか? この中っすよ」 さも当然とでも言うかのように、二礼が吹き飛んで常時開店状態になった裏口を指差す。 いやいや、さすがにそんな体力も気力もねぇよ。 って、ああこら勝手に中に入るんじゃありません! 「ちくしょう、外道巫女が……!」 せめてもの対抗策として、制服(もう泥と埃だらけで洗って着れるのかなぁクリーニングどうするよ?)のポケット中からバンダナを取り出して口に巻く。 これで息するのが大分マシになるだろう。 それでもかなり憂鬱でやる気の出ないのはしょうがない。 中からは、 「何ちんたらしてるんすかー?」 という先輩を敬う気持ちが一切篭っていない後輩の声が聞こえる。 とはいえこのままここに突っ立ってるわけにもいかず。 危険な香りが漂う裏口から何時ものバイト先とは到底思えなくなった中華料理店へと、今日何度目か分からないが足を踏み入れた。 トップに戻る 作品投稿場所に戻る
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公式や作品の設定固めに繋がるような質問が多いですね -- (名無しさん) 2012-06-12 19 55 22 単純な疑問だけどニーサンとモルテで今異世界は死神が二神いることになっているのかな -- (とっしー) 2012-06-26 23 13 53 ニーサンは引退した際に権能のほとんどを持っていかれてるんだけど、もるもるが本来の仕事サボり放題なので仕方なく零細死神業を続けざるを得なくなってます -- (名無しさん) 2012-06-27 02 27 42 魂の操作・固着といった遊ぶのに都合のいい権能だけ保持して、巡回しなきゃいけないから面倒な転生まわりだけニーサンに押し付けている可能性もあります。あくまで【Black Dog】作者のイメージだけなのでこのへんは他の人も好きにいじっていいのよ -- (名無しさん) 2012-06-27 02 30 22
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市原和美 「そりゃあついて行くに決まってるじゃないッスか。暇ですし」 基本情報 名前 市原 和美(いちはら かずみ) 学年・クラス 高等部1年C組 性別 男 年齢 15 身長 172cm 体重 66kg 性格 表向きバカ。ただし裏もバカかもしれない。ヒーロー願望があるが、誰か特定の相手のヒーローであれば満足だという類。割と命知らず。舎弟体質で年上・目上に弱い。多少不真面目。時に猪突役、時にストッパー役。意外と小言やしつけの才能がある。 生い立ち 幼少時に特筆するべきところはない。ちょうど中学選びの頃に異能力が確認され、周りの空気を読んで学園へ入学。が、中等部時代は割と荒れていたらしい。4つ下の妹がいる他、両親、祖父母まで健在。 基本口調・人称 だ、ぜ・目上には~ッスなど若者敬語が混ざる オレ、アンタ、センパイ 特記事項 体格はそこそこがっちりでまだ成長期。鼻筋が凛々しく、しっかりした顎を持つ健康的美青年の器(誠司談)スポーツマンを意識して硬めの髪を側頭部刈り上げにしているが、強面のため時折ヤンキーと間違われる。左投げ右打ち。箸も右。異能力の都合上エンゲル係数がヤバイ。 キャラデータ情報 総合ポイント 20 レベル 6 物理攻防(近) 2 物理攻防(遠) 2 精神攻防 3 体力 4 学力 2 魅力 3 運 4 能力 時間限定の「不死化」能力 特記事項 異能力発動時には馬鹿力補正がかかる、かもしれない その他詳細な設定 能力 身体の魂源力をほぼ全て使って、約30秒間(より正確に表現すれば、精神攻防値の10倍程度の秒数)不死身になる異能力を有する。 発現時間中であれば如何なる事象によっても死ぬことはない。時間中は超絶的な再生復元能力(脳なども含む)を発揮する。 なお身体強化系ではないが、身体が損壊するほどの力を振り絞るといった無茶が可能となる。 発動プロセスはむしろ『何かに対価として魂源力を払う契約』のようなもの。魔術系ではないかとも言われるが、肝心の契約対象がいないので例え話の域を出ない。 発動は任意で一瞬、見かけ上の変化はなし。一度能力を使うと、魂源力が必要量に充足するまでは発現不可能。特に「食べる」ことで魂源力の充実が飛躍的に早まる。 装備 手先や拳の保護をする手甲。指先を守る他、もっぱら馬鹿力で障害を無理やり取り除くのに使う。 中等部時代から徒手空拳と射撃の訓練を受けているが、あまり真面目に参加していなかったので習熟は微妙。ガキ同士のケンカなら、異能力のせいもあってそこそこ強かった。 半年ほどの部活動によって、人を庇うスキルの方がよっぽど磨かれている。 特徴 双葉学園レスキュー部の唯一のヒラ部員。「舎弟その一」は自称かつ他称。レスキュー部が出来てしまった理由の大半は彼のせい。 異能力のせいもあって無茶しがち。部長である菅誠司を、ダメなところ込みで割と尊敬している。 対ラルヴァ戦闘部隊の参加頻度はまだあまりない。あっても大体壁役である。 登場作品 登場作品のリンクを貼ってください。後から追加もしていってください 作者のコメント 何か付け加えたいことや言いたいこと、キャラに対するこだわりがあればここに
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ラノで読む 1/ 「く……くそっ!」 少年は逃げていた。夜の公園をただひたすらに走る。 少年は怯えていた。こんなはずではなかったのだ。憧れていた力をやっと手に入れた、なのに……それを上回る圧倒的な力に叩き伏せられ、そして追われている。 捕まれば終わりだ。終わってしまう。それを少年は本能で察していた。弱者として生きてきた本能がそう囁いている。唯一、自分が勝者となれた仮想世界の力でさえ、今夜をもって完璧に折れてしまった。 足がもつれる。少年は倒れる。 「ひ、う、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 目の前に立つ人影。それを前に少年は絶望の慟哭をあげる。 光が点る。どこまでも冷たい輝きが、少年を襲った。 Avatar the Abyss 後編 生命 2/ 「また被害者が出たの!?」 風紀委員会の部屋で、報告を受けた少女……藍空翼(あいそら・たすく)が声をあげる。まるで小学生のようだが、学年章からは高等部の二年生だという事がわかる。 もみあげの長い、ショートカットの髪を振り回して、ああああもう、と翼は頭を抱えた。 「何なのよもう、これで六人目よぉ~……」 「今回もまた、過度の精神衰弱が見られますね」 「話は……やっぱり駄目?」 「はい。昏睡状態で聴取できる状態じゃありません」 風紀委員達が、渡された調書に目を通す。 「被害者の共通項……ゴッドアヴァタールオンラインのプレイヤー、かぁ」 「ネットゲームしか手がかりがないからって、うちに回してこなくてもいいんですがね。微妙に専門外です」 メガネの風紀委員が言う。 そう、此処は風紀委員会は風紀委員会でも、特別な部署である。 風紀委員会電脳班。通称、ネット風紀委員。さらに略すとネッ風。 双葉学園に向けて行われるサイバー攻撃を一手に引き受け、情報を守る電脳防衛隊! ……ただし、双葉学園はセキュリティがしっかりしているので、彼女達の仕事は殆ど無かったりするのが現状だった。エロ画像の検閲や、双葉地区内イントラネットの管理運営程度である。ある意味、風紀委員会の窓際族と言ってもいいだろう。 そんな電脳班に、珍しく事件が回された。 一般の生徒達が次々と昏睡状態に陥っている、という事件だった。その共通項は、とあるネットゲームのプレイヤーである、ということ。そういう訳で、専門家であるネット風紀委員こと電脳班にこの事件が任されたのである。 「体のいいたらい回しだよねこれ……」 「管理会社に問いただすのも難しいですからね。異能関係の事件は第一級秘匿事項、本土の一般の人たちには話せませんし」 「そもそもゲームプレイヤーってだけでは無理でしょうね」 風紀委員たちが話し合う。しかし中々に難しい問題だった。その時…… 「ここはやっぱり我々の流儀でやるしかないわね!」 翼が立ち上がる。 「流儀って、まさか……」 「そう、ハッキングよ!」 「違法ですそれ班長ぉ!」 ビシっと指をさす翼に、風紀委員達が大声で叫んだ。 3/ 昼休みになって、ようやく那岐原新(なぎはら・あらた)は登校した。 朝までゲームをして、昼に起床したからだ。睡眠時間をちゃんととっているあたり、人として間違ってない。と、本人は思っている。 『どう見ても間違ってるだろ。学生の間からそんな生活……』 彼の「想像上の友達(イマジナリィ・フレンド)」であるベルがため息をつく。想像上の友達とは、本人にしか見えない、空想によって作られた友人である。そう書くと妄想狂の産物のように思えるが、心理学等でもれっきとして認められている、幼年時代の心理的防衛機構の一面である。 だが、高校生になってもそれが消えずに未だに存在し続けるどころか、完璧な人格を得るまでに育ってしまう例は稀だ。新が勇気を振り絞り恥を忍んで医者に聞いたところ、それは異能ではないか、という話だった。なるほど、それならば確かに納得できる。 だが他人や物質になにも干渉できず、本人からも触れもしない。そんな空想像を保つ異能など、まず間違いなく全国最弱クラスだろう。だから新はやはりというべきか、誰にもこの事を言ってはいない。 (まあ、出席日数は足りてるし) 新はちゃんと計算している。ゲームによる遅刻や欠席を繰り返しても、出席日数は最低限足りるようにペース配分は欠かしていないのだ。 『そのマメさを勉強に役立てればいいのに……』 (いいんだよ。学校の勉強なんて大人になったら役に立たない、だけどネトゲは人とのコミニュケーションツールだ。そこでの経験は将来生きるのさ) 心の中でベルにそう返答する新。まさに駄目人間の理論であった。 そう心の中で会話を繰り広げながら歩いていると、見知った顔と出会う。と言ってもリアルで顔をあわせたことは一度しか無い上に、会話したのもつい先日のことである。 名前をルキオラ。ただしゲームの中の名前であり、本名が篝乃宮蛍であることは、新は知らない。 「あ、やあ」 あまり他人と話したくないが、ゲーム内の友人である。無視するわけにもいかないので、ぎこちなく手を上げて会釈する。 「……」 しかし蛍は、新を一瞥し、そのまま過ぎ去った。 「……」 『……』 上げた手が妙にむなしかった。 『……無視されたな』 「ああ。まあ、オンとオフは別だしな」 ネットとリアルでは分けて考える人は多い。彼女もまたそのタイプの人間なのだろう、と新は思うことにした。ほかならぬ自分もそうである。 それにこの程度の事で凹むような新ではない。ゲーム内で無視されたら結構凹むではあろうが。 気を取り直して歩いていると、今度は新のほうが声をかけられた。 見知らぬ少年に。 「お前、面白い仮想神格(アヴァター)を持ってるな」 「え?」 いきなりの脈略の無い言葉に、新は足を止める。 その少年は、血走り窪んだ目で、新を見ていた。 「ええと、何? アヴァターって……」 ゲームの話か。しかしいきなり何だろうか。 新が困惑していると、少年はさらに続ける。 「何言ってるんだよ、すぐそばにかわいい子連れてるだろ」 『え……うそ!? こいつ、私が見えてるのか!?』 その言葉に、ベルが驚愕する。それそうだ、在り得ない。なぜなら彼女は、新の想像上の存在……つまり、言い換えるなら新の頭の中にしか存在しないのだ。 「なんだあんた、他の同類に会った事ないのか?」 「同……類?」 困惑する新とベルに、少年はさもおかしそうに言う。 「こいよ。説明してやる」 その少年に従って、新は校舎裏へとやってくる。 「自己紹介がまだだったな。俺は東堂克彦」 「あんた……こいつが見えるのか」 「ああ。普通の奴らには見えないだろうな。特にお前のは、なんってーか、薄い」 『薄いってどういうことだよ!』 叫ぶベルを見て、克彦は笑う。 「……反対に自我だけは濃そうだけどな、面白い。そいつ、俺にくれよ」 『はあ!? 何を言っているんだお前!』 ベルが大声をあげる。それを新は制止して言う。 「いや、無理だろうそれ。「想像上の友達」を見ることが出来るってのはびっくりしたけどさ、でもこういうのは他人に譲ったりできるものでもなけりゃ、するもんでもないだろ」 新の言葉に、 「は……? くく、あっはははははは!!」 克彦は大爆笑した。 『な、何だこいつ……何か、おかしい。すごく……不吉だ』 その言葉に新も同意する。だが、逃げようにも何故か動けない。 「なに、こっちにもレベル差ァあるって聞いたけどよぉ……そうなわけ? 雑魚か、お前。まあいいや、だったら説明する義理もないか」 そう笑いながら、克彦はゲーム機を取り出す。小型のポータブル機だ。そこに収まっているソフトは、アバタールオンラインのポータブル用ソフト。 そして、一枚のカードを取り出す。メモリーカードだ。 「それは……!」 新も知っている、拾ったあのカードである。 克彦は薄い笑いを浮かべながら、ゲーム機にメモリーカードをセットする。 『ミセリゴルテ』 電子音声が響く。 そして――。 「な……っ!?」 現れる巨大な映像。空中に投影されたそれは、半透明の立体映像のようでありながら、強固なリアリティを持っていた。 そして、それは……ベルに似ていた。外見ではない。何といえばいいだろうか。例えるなら存在感。 自分の世界にしか存在しない……そう思わせる、現実と剥離した視覚像。 それが現実を侵食し、現出している! 巨大な処刑剣。斬首剣。それが克彦の手に収まる。 「これが俺のアヴァターだ。さあ……大人しく渡してもらおうか、お前のアヴァターを」 「人の話聞けよ、渡すなんて出来ないって! ていうかなんだよこれ!?」 『新、逃げないとっ!』 ベルが叫ぶ。新はあわてて走る。 「逃がすかよっ!」 克彦が剣を振る。新の背後にあった植木の枝が切断された。 「まて、なんで想像上の友達(それ)が物理攻撃できるんだよ!」 『私に言われてもわからない! 私は出来ないのに!?』 「すまん確かにそうだった!」 想像上の友達はあくまでも想像の上であり、心理学的な解釈を付け加えても、人工的に作られた仮想人格に過ぎない。本人が無意識的に頭にいれたことや、忘れ去った記憶を知っていたことはありえるが、知らない事を知るはずがないのだ。 「それが出来るんだよ。仮想現実(バーチャル)が現実(リアル)を侵食する……最高だろォ? ゲームの世界で神々だった俺は、こうやって現実でも神に、異能者になれる。ああ、あいつらの言ったとおりだ。だが足りない、これだけじゃ足りない。もっともっと俺は強くならなきゃいけない。だから……お前のアヴァターもよこせよォォオ!!」 そして、剣が輝く。その光を浴びたベルの様子がおかしくなる。 『あ、あ……な、なにこれ……!?』 「どうした、ベル!」 がちがちと震えるベル。それはまるで恐怖に苛まされて絶望に飲まれているかのように。 「ミセリゴルテの力……精神ステータス異常攻撃だ。くくく、こんなのまでちゃんと再現できるんだからすげぇよなァ。まだ人間には効かねぇけど、それもすぐだ。強くなれば、もっともっとアヴァターを集めれば、俺はレベルアップするんだ。そして……」 『ああああああああああああああああああああああああああ!!』 ベルが絶叫する。 「おい、ベル、おい!!」 新は状況に全くついていけない。いきなりゲームのアヴァターを呼び出す、ベルが見える男、それが襲い掛かってくる。そしてベルは完全に混乱、いや狂乱している。 なにがなんだかまったくわからない。 わからないまま―― 「そこまでっ!!」 拡声器で増幅された声が響き、電磁ネットが放たれる。 「んなあ……っ!?」 全身の痺れが克彦を襲う。しかしスタンガンのような、強力な電流ではない。故に克彦は気絶することはなかった。 だが…… 「っ、ミセリゴルテが……ッ!?」 強固な実体を持っていた映像が解れる。歪む。砂嵐のようなノイズが走り、リアリティを保てなくなる。 「やはり、強力な電磁波を浴びせれば、ゲーム機やそのカードは機能停止を起こす……精密電子機器の弱点ですね」 草むらから現れる生徒達。その腕には風紀委員の腕章がつけられている。 「我々は双葉学園風紀委員会電脳班、通称「ネット風紀委員」! 連続生徒襲撃犯に告ぐ、神妙にお縄につきなさいっ!!」 その中で一番小さい、えらそうな女の子が指をさす。双葉学園風紀委員会電脳班班長、藍空翼である。 「……え?」 さらに事態についていけない新だった。 「糞、なんで風紀が……! ちっ、ちくしょう、俺のアヴァターの力が……! 弱く、消える……!!」 もがく克彦。 「班長、警告は通じないようですね。電磁ネットの出力をあげて……」 メガネの風紀委員が言う。だが、翼はその言葉を最後まで聞かずに動く。 「班長? ……ちょっと!」 メガネの風紀委員が上ずった声をあげる。 翼が取り出したのは、妙な形のハンマーだった。巨大なサイズのスタンガン、大きさにして1メートルはある、そのまま巨大になったスタンガンに大きな柄がついてハンマーの形になっていた。そのハンマーヘッドのスタンガン電極部分がバチバチと放電する。 「ちょ、おま、それ!」 「やめて班長ー! 証拠がぁあ!!」 風紀委員たちが制止する。だが遅い。いや、たとえその制止が早くても、彼女は最初から徹頭徹尾、そのスゥイングを止める気はなかった。 問 答 無 用 !! 全力フルスイングで叩き込む。 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 炸裂する。 電磁ネットよりさらに強力な電流・電磁波を叩き込み、電子機器を完全に破壊する必殺武器、超電磁スタンガンハンマー。 サイバー犯罪者の目の前で彼らの大事な大事なデータを物理的・電子的に完璧に破壊する事を目的に造られた超風紀デバイスである。 「成敗っ!!」 ミセリゴルテが爆発する。 そして普通に強力な電流なので、克彦もまたその直撃をくらい、見事なまでに気絶していた。 翼が勝ち誇るその足元で克彦のゲーム機が地面に落ち、ブスブスと黒い煙を放つ。完璧に破壊され二度と使えないだろう。 そしてそのゲーム機から、メモリーカードが落ち、砕けた。 4/ 「なんてこと、犯人を捕まえたって言うのに、また同じパターンで意識不明……」 「いやそれ班長のせいだから!!」 風紀委員達が一斉に叫ぶ。 倒れた克彦を捕らえ収容したものの、意識は戻らず、ゲーム機やカードも完全に壊れていた。 「なんで!? ああしなきゃ被害出てたかもしれないのよ!」 「あの時点で意識はともかく戦闘力はほぼカットされてたと思うんですが」 メガネが突っ込みをいれるが、翼は無視した。 「何なの、これ」 そんな騒がしい状況を見て、新はつぶやく。 参考人として風紀委員たちに連れてこられたものの、新を無視して騒いで……いやコントを繰り広げていた。 「まあ、これが彼らの日常なんだろう」 扉の近くにいた新の背後から声がかかる。扉を開けて出てきたのは、白衣の青年だった。 「えと、あなたは……先生?」 「僕は教職員じゃないよ。言うなればゲストかな」 「あ、語来先生だ!」 翼がその姿を見て言う。 「だから僕は先生じゃない」 同じような応答を、各所で幾度となく繰り返してきた。彼の名は語来灰児、通称ラルヴァ博士と呼ばれる二十五歳の無職である。 「わざわざすみません、お呼び立てして」 「なんだ、君も呼ばれていたのか」 そしてさらに一人、また部屋にやってくる。 「どうも、稲生先生」 稲生賢児。双葉学園の異能研究室の教授である。 「今回、先生方をお呼びしたのは……」 「ああ、すでにもらった書類は読んだよ」 灰児が言う。 「彼もいるという事は……」 「はい。異能の観点と、ラルヴァの観点と、双方の視点からまずは調べようと思いまして、専門家を及び立てした次第です」 メガネが二人に説明する。 そうしてる時に、翼が新を見て、言った。 「ああ、あんたまだいたの? 帰っていいよ」 そのあまりの言い草に、流石の新もカチンときた。 「おい、なんだよその言い草」 「何だもなにも、もういいし」 「連れてきたのお前達だろ!」 「でもろくな情報もなかったし、開放してあげるって言ってんのよ。ていうかね、私、あんたみたいなニートオタって嫌いなの」 「なん……だと?」 「あんたみたいなののせいで、私達風紀委員電脳班も同類に見られてすごい迷惑なのよ!」 その大声に、風紀委員電脳班の部屋が一瞬、静かになる。 「私だってゲームとか大好き。だけど現実とゲームをごっちゃにするようなのが今回の事件とか起こして、みんなに迷惑かけてるの!」 「俺を一緒にするな! 俺だってリアルとバーチャルの区別はちゃんとつけてる! バーチャル重視で!」 「重視じゃだめでしょ!」 「誰が決めた!」 「私がよ!」 「うわなんだその超ゴーマン! これだから惨事のメスは!」 「傲慢でもいいわよ! そうでもなきゃ、誰かを守れない!」 「……っ」 新は、翼の目を見て言葉が止まる。 その瞳には、涙が浮かんでいた。 「なんか修羅場ってるねえ……」 それを見て、灰児が言う。そんな灰児に、メガネが言った。 「班長は、昔……といっても二年前ですが。ゲームで友達を失ったんです。自分がネトゲに友達を誘って、それでその友達が……ゲームが原因で家庭崩壊したんですよ」 「……それは、なんというか」 灰児も稲生も、言葉が継げなかった。 「しかも、因果なことに、その時のゲームもアヴァタールオンラインでした。だから班長はやる気を出してるんですよ、たらいまわしでしかないはずのこの案件に、ね。まったく、部下としては面倒この上ない。面倒は厭なので、早く解決しましょう」 「嫌だから適当にやる、んじゃないんだ」 「まさか。嫌な事はとっとと、かつ完膚なきまでに片付けて、楽しいことをのんびりと適当に長くやるのが人生の秘訣ですよ」 「子供に人生訓を語られるとは思わなかったなあ」 灰児が苦笑する。 「だな。ではとっとと研究をはじめようか」 稲生もまた苦笑しながら、ファイルを開いた。 「それでは気をとりなおして」 会議室でメガネが司会進行を行う。 「特別ゲストとして、ラルヴァ専門家の語来灰児氏と、稲生研究室の稲生先生を招かせていただきました」 拍手が起こる。 「では先生」 「うむ」 稲生が前に出る。 「噂話や現場の状況など、諸君らがネットで集めた情報をまとめた結果。今回の事件は、「一般人が異能の力を手に入れる」という噂話がその根本にある、という話しだった」 「はい。ですから稲生先生にお越しいただきました」 「だが、一般人が異能の力を簡単に手に入れる、というのは非常に難しく、そして在り得ないケースだ。今回は……」 スライドに映される、ゲーム機とカード。 「現場より押収されたこれらが、異能発現のアイテムではないか、という話。これもネットの情報と合致する。 だが、だ。異能を発現する、つまり所有者に能力を与えるアイテムというのは、原則的にやはり強い魂源力を持つ異能者でないと無理だ」 「確かに……そんな強力なアイテムを一般人が使えるのおかしいでしょ」 賛同の声があがる。 超科学の産物であるアイテムは、簡単なものなら普通の人間でも使える。だが強力なものであればあるほど、普通の人間に使用することは出来ない。持ち主の魂源力を使用するからだ。 「たとえば、班長の愛用のハンマー程度のレベルなら、普通の人でも持てます。でもこのカードはそれよりも遥かに高度な超科学の産物ということになる」 「だったらおかしいじゃない、ルール違反でしょ!」 「発想の逆転だ、藍空班長。これはね、所持した人間が使用しているんじゃない」 「え? どういうこと……?」 稲生は灰児に目配せする。そして灰児が一歩前に出る。 「ここからは僕が説明しよう。まず前提が大きく違っているんだ。 これは、一般人が異能の力を発現する事件ではない」 灰児は、強い口調で断言した。 「ラルヴァが人に……一般人にとりついているのさ」 5/ 風紀委員から追い出された新は、特にあてもなくただ歩いていた。 (なんだかなあ) 先ほどのちっちゃい風紀委員がどうにも気になった。というかむかついた。 気を取り直して、新は携帯電話を持って、話す。 「どうした、ベル。さっきから全然出てこないし……大丈夫か?」 しばらくして、新の心に声が響いてくる。 『……私は』 「どうした?」 『思い出したよ。いや、理解した、自覚したと言った方がいいのかな?』 「何を?」 『私が何者か。どこから来て、どこへ行くのか』 「なにを言ってるんだ。お前は、俺の作った想像上の友達で、俺の役立たずの異能で……」 『違う』 その言葉は、はっきりと、拒絶の意すら示していた。 『お前は特別じゃない。そんな力など持ってはいないんだ。 はっきり言おう。お前は、「想像上の友達を使う異能」を持っているわけじゃない。私(ラルヴァ)に取り憑かれたただの……一般人だ』 「異能者になったわけじゃ……ない?」 「そう。そのラルヴァの名前は、【アバター】と呼ばれる、カテゴリーエレメント。精神寄生の性質を持つラルヴァだ。一番似ているのは……そうだな、死出蛍が近い、かな。 それは人の精神にとり憑き、その精神の在り方を再現するといわれている。 ドッペルゲンガー現象と呼ばれるものの一部は、このアバターが原因だ。本人をこのラルヴァが再現し、作り上げる。その為に宿主の魂源力、生命力を吸い上げる。「ドッペルゲンガーを目撃したら死ぬ」というのは、このアバターに寄生され、生命を枯渇した末路だな。 だがそれは強力なそのアバターの固体に取り憑かれた場合の話であり、基本的にアバターはそこまでの強力な危険は無い。せいぜいが幻影を見せたり、軽い一時的な人格変化を起こす程度だ。少なくともアバター本体には、明確な意思や悪意は存在しない……というのが僕たちラルヴァ研究家の見解だ」 その説明を、稲生が引き継ぐ。 「だが、そこにこの超科学アイテムが関わると話が違う。これは半分近くは推測ではあるが、アバターを強化・増幅・進化させるためのアイテムだろう。ネットゲームのキャラクターのデータを反映し、アバターの性質を利用してそのゲームキャラクター、つまりアヴァターへとまさしく「化身」させる」 「アバターは本来は弱いものだ。魂源力の強い人間には寄生できない。自分の存在がかき消されるからね。また、感受性の豊かな子供にしか寄生できない。自分の存在が否定されるからね。そんな弱いラルヴァだが、このカード、このゲームを利用し、何者かがラルヴァを品種改良しようとしている……という事だろう。ゲームのプレイヤーを使って」 「そんな……ひどい」 「一般人を……実験体にだと!」 ざわざわと風紀委員達のざわめきが会議室に響く。 「先ほど追い出された彼だが、彼に話を聞いた限りでは、東堂克彦は人を襲っていた。アヴァターを奪う、と言いながら。それはこのカードを奪うこともあるのだろうが、寄生したアヴァターを無理やり引き剥がすということも意味する。精神に寄生しているものを破壊したり引き剥がせば精神ショックは計り知れない」 「治るんですか、灰児さん」 「ああ、簡単に言えば荒療治で病巣を無理やり取り除くようなものだから、以降被害者達が衰弱し、死亡するといったことは無い。休んで回復に努めればよくなるだろう」 その言葉に、会議室の空気は緩和される。だが…… 「しかし、問題は未だそのカードを所持しているだろう子供たちだ。現在、被害者は彼を除いて六人。先ほどの彼、那岐原君はカードを所持していなかった。そして克彦君が所持していたカードは、二枚、だ。どういうことか判るだろう?」 「衝撃者は、他にもいる……?」 「そういう事だ。それが一人か、それとも複数かは知らないが、アヴァターを、メモリーカードを奪い合い戦っているのは確かだろうね。そして心配なのは、その襲撃者……いや、カードを持っている子供たちすべてだ」 「普通のアバターは無害に近い。だが、それはあくまでも普通の弱いアバターの話だ、先ほど例に出したドッペルゲンガーのような強力なアバター、そして或いは……長い年月の間人間に寄生したまま、完全な自我を持つまでに成長したアバターは強い。強さのベクトルはそれぞれだろうがね。そしてそういうモノは、もし暴走すればいともたやすく人を取り殺す。そしてそれは、カードによって進化したアヴァターも例外では無いという事だ。心を侵され、人格が豹変し、そして……乗っ取られる」 そう、新は異能者ではなかった。想像上の友達を固定化させるというものは自分や医者の憶測でしかなかったのだ。 ベルはラルヴァ【アバター】だった。十四年前に新にとり憑き、そして新の想像力を糧に育っていった、精神寄生型ラルヴァだった。 『あのミセリゴルテの光は精神を揺さぶる。あれ自体はそこまで強力ではなかったから、宿主であるお前にまで効果は及ばなかったね。だけど私にははっきりと攻撃は有効だった。そして私は知ったんだ。私が、お前に取り憑き、ずっと少しずつ、お前を糧にして育っていった、ラルヴァだったって』 新の眼前に、ベルが姿を現す。半透明の、幻影の姿。それがいつもよりも余計にかすんで見えた。 「……ベル……お前」 『来るな』 ベルは新を拒絶する。 『私はお前の友達じゃない。兄妹でもない。ただの寄生虫だった。だってそうだ、本当に友達なら、友達を食べたりするか? そんなことはしない。そう、そういうことだ新』 ベルは笑う。消え入りそうな笑顔で。 『私は……ただの化け物だった』 「……」 新は何もいえない。 『さよならだよ、新。もうお前とはこれっきりさ。今まで楽しかったよ。私のことはただの幻想(ゆめ)だったと思って忘れてくれ』 そういい残して、ベルの姿は虚空に溶け込むように消えた。 新は寮に帰りつく。扉を開け、部屋に入る。 静かだ。 部屋は……こんなに広かっただろうか。 敷きっぱなしの布団を見る。布団はふたつ。片方は新の。もう片方は、ベルの布団だ。 『気分の問題だ。私にも布団を用意しろ。実家ではソファだったからな、うん』 電源の入ってないパソコンモニターを見る。アバタールオンラインでは、アカウントをひとつ別に作らされた。 『すごいなこれ、私もモデルに作ってくれ! これなら私も他人と話せるしな!』 台所を見る。茶碗も二人分だ。布団と同じく、使われた事は無い。 『残念だなあ、私は実体が無いので食べられない、気分だけだ……茶碗まで買わせたのに』 存在しないといえば確かにそうだ。ベルは物質に干渉できない、本当に精神だけの存在だった。ただその自我、人格だけが無駄に育ち、自己主張していた。それをただの妄想だと笑うことは本当に簡単だ。取り付いた霊と言っても正しい。 だがそれでも……この部屋にはその痕跡が確かにある。確かに残っていた。 「忘れろ……か」 カードを掴む。 「忘れられる……わけねぇだろうがぁ!」 新は叫び、寮を飛び出した。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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4 「ゲホッ、ゲホッ!」 ピンクを基調としたなんとも可愛らしいパジャマの女の子。彩子は自室のベッドで上体を起こし、本を読んでいた。時折激しく咳き込んでしまう。 「あんにゃろ、思いっきりウィルス移していきやがったな」 昨日は厄日といっていいぐらい災難続きだった。昼休みにクラスメートと遊んでいたら、謎の二人組みにいきなり襲われてしまった。強烈なスタン攻撃と×××××のウィルスを二重にもらい、体が悲鳴を上げる。体育倉庫の脇でくたばっていたところを、拍手敬や笹島輝亥羽らクラスメートに発見され、保健室に運ばれていったのだ。 二時間ぐらい眠ったら少し楽になったので、襲ってきた二人組みのことを保健室の教諭に話したのがさらなる地獄の始まりであった。特に「エリザベート」という言葉を発したとたん、醒徒会・風紀委員・異能警察のお偉いがたが来るわ来るわ、合計して三時間以上も事情聴取につき合わされてしまった。二十一時に幸子の車に乗せられて帰宅したときには完全に死んでいた。 「勉強遅れちゃうじゃないの」 むすっと窓の外を眺める。今日も夏場らしいいい天気だ。時刻は午前十時。こうして家に引きこもっているのがもったいないぐらいの、気持ちのいい朝だった。 きらっと何かが輝いた。 彩子は「ん?」とよく目を凝らして青空を見つめる。 その瞬間、「女の子の顔」が飛来してきてぐんぐん迫ってきたのを認める。「いやああ」と彩子は真横に飛び、床にゴロゴロ転がった。窓ガラスを豪快に突き破り、彩子の寝ていたベッドにガラスの破片が散らばる。あと一歩遅れていたら血まみれの惨劇が起こっていた。 女の子は両足からバーニアを噴かせていた。これで飛行し、直接彩子の部屋に突入したのだろう。ぽんぽんと服に付いた破片を払い、にっこり彩子と対面してこう言った。 「初めまして彩子さん。××××××××です。玄関からお伺いするのもはばかれたので、空から直接こんにちはしちゃいました」 バシンと竹刀で天然ボケ少女を叩く。 「何バカなこと言ってんの! 常識考えなさいよ!」 そしてシュルシュルとベランダに巻きついた謎のロープ。彩子は「ひっ」と悲鳴を上げる。 「よいしょ、よいしょ、ふう、突入とか久々にやったわ」 ロープを伝って這い上がってきた、サイドポニーの特徴的な眼鏡の子。彩子は×××××××××××の玄人じみた動きに言葉も出ない。 それから、「コトン」と何かが立てかけられた音。ベランダの柱にハシゴが立てかけられていた。 一歩一歩、ゆっくり上がってきた高等部の女の子。前髪が隠れてほとんど見えない×××××の登場だ。 「お二階だというので・・・・・・ハシゴ・・・・・・借りてきちゃいました・・・・・・」 「×××さんって冷静ですのね・・・・・・」 同じように後からハシゴを上がってきたのは、××××××××である。 「あ、あ、あんたたち、どういうことなの!」 突然の不法侵入に腰が抜けてしまっている彩子。人差し指を彼女らに向けて、縦に振り動かしていた。 「そんなことだろうと思ってたわ」 ××、××××、×××が三人並んでちょこんと座っている。その前にデンと胡坐をかいているのは×××××だ。 「昨日何があったか教えてもらいたいの。×××××を連れていかれたんだから、私たちもおとなしくしていられない」 フン、と彩子は立ち上がって腕を組む。そして言った。 「お断りするわ」 「ええっ」と悲しそうな顔になる××××。 「そんな、手がかりを知りたいだけですのに」と××。 「残念・・・・・・無念・・・・・・」 「どうしてよ! あなた犯人の顔見てんでしょ? 私たちはあいつらに一泡吹かせてやりたいだけなの!」 「やだったらやだ」 済ました顔でぷいと横を向いてしまう彩子。それから四人にこう言って突き放した。 「学園の犯罪者に加担したくないもの!」 それだけで××らは黙り込んでしまった。彼女たちは先月にとある大事件を起こした学園の問題児なのだ。 学園がひた隠しにしてきた「××××××」の異能者たち。彼らは有害な異能者として同じ異能者から区別・管理される立場に貶められてきた。 それを変えるために、×××××ら後の世代の××××××を守るために、自由を勝ち取る戦いに出た人もいた。しかしそんな人の尊い犠牲にも関わらず、現状として何も変えられないという空しい結果に直面したとき、彼女ら七人の感情は大きな爆発を見せた。それが先月の学園テロ騒動である。 ×××××らは醒徒会に破れた。 退学処分こそ免れたが、果たして彼女ら七人は何かを変えられたのだろうか? いや、何も変えられたはずがない。強硬手段や暴力行為では何事も変えられないということを、彼女たちは知らなかった。 事件後の記憶操作こそ試みたものの、この六谷彩子のように精神力が強い者には通用しない。あの騒動で×××××ら七人の凶悪な言動を目撃したものや、怪我など被害を受けたものはしっかりと彼女らを特定危険人物として広めていた。 以前よりも数倍と厳しくなった、軽蔑の視線。監視の網。彼女たちが学園生徒として周囲に溶け込むことは、もう不可能なのかもしれない。現状に変化をもたらすため出た行動によって得られた結果がこれでは、余りにも本末転倒だろう。 「みんなどんな目にあったか知ってる? フケ女に怯えて泣いてる子がいた。バイキン女の菌が流れてきて病気になった子だって出た。私なんてね、暗示が脳に残ってしばらく頭痛が離れなかったんだからね! ・・・・・・あんたのせいよ、目隠れ!」 指を差されたとき、びくっと×××の肩が揺れた。 「あんたたち、私に物を頼める立場なの? ふざけないで!」 七人はもう双葉学園で浮かばれることはないのか? 学園を、それも醒徒会を相手に力を使った罪は重かった。 不敵な笑みで醒徒会メンバーの前に現れた××××××××。 何のためらいもなく危険な荷電粒子砲を、会長と校舎めがけて放った××××××××。 不特定多数の生徒の脳に干渉し、暗示をかけて制御した×××××。 校舎内に鱗粉を吹き込もうとし、大多数の人命を脅かした××××。 醒徒会の活動を妨害し、××に加担して結界を貼った××××。 醒徒会会計監査を徹底的にいたぶった、テロの首謀者×××××××××××。 そして、冷酷極まりない視線で醒徒会を殺しにかかった、××××××××××。 かつて学園に対して牙を剥き殺しにかかった連中が、その学園生徒に懇願して力を借りようなどとは、彩子にとって虫のよすぎる話に思えて非常に気に食わないのである。 「あたしゃ昨日から事情聴取ぶっ通しでうんざりしてんの! しかもバイキン女のせいでインフル地獄だし! その上人の部屋に不法侵入? 揃いも揃って馬鹿やってんじゃないわよ! これ以上なんか悪巧みしてんのなら、すぐにでも通報して学園にいられなくしてやる!」 一方的にまくしたてた後で、彩子は脳裏に×××××のことを思い出す。自分に覆いかぶさって、代わりに恐ろしい連中に連れて行かれた彼女。そんな彼女の優しい好意をふと思い、少々心が揺れ動く。でも強情で意地っ張りな彩子はなおも四人に対して強気な姿勢を貫く。 「まったく。ああいう弱っちい女大っ嫌い。あんなことしておいて、自分は被害者ぶったような面して」 そこまで言った彩子は、突然胸倉をきつく掴み上げられた。 「×××××!」 ××らが慌てて立ち上がった。×××××が彩子の寝巻きの襟を掴み上げ、そのままクローゼットに叩きつけてしまった。本棚の本がゆれ、家族写真の入った写真立てがぱたんと前に倒れる。 「×××××の悪口は許さないわよ・・・・・・」 「くっ、あんた・・・・・・!」 「別にあんたの御託を聞きにきたわけじゃないの。ぎゃんぎゃん吼えてないでとっとと教えなさいよ」 「こんなことして・・・・・・あんたたちはやっぱり学園の」 「どーとでも言えば?」×××××はニヤリと笑って彩子を煽る。「どうせ失うもんなんてないんだし。んなことより教えてくれないんなら、この首根っこ折っちゃうわ」 「てめぇ・・・・・・ッ!」 「×××××、もういいでしょう!」と××が一喝する。××××とともに彩子から引き剥がされたとき、×××××の両目から涙があふれ出た。 「×××××を助けたいのよ!」 じゅうたんに手を付いてけほけほ咳き込んでいた彩子は、感情を爆発させた×××××のことを見上げる。 「あんたが教えてくれなきゃ、私たち何にもできない! ×××××を見殺しになんてしたくない!」 「彩子さん。確かに私たちはあのような行為で、何もかもを失ってしまったのかもしれません。でも、こんな私たちにもまだ大切なものが残されているのですわ」 「仲間・・・・・・」 「×××××は大事な友達。それまで失っちゃったらもう、私たち・・・・・・」 「お願い、教えて! 誰が×××××をさらったの? ×××××をどこにさらったの? 優しいあの子を返して欲しいだけなの!」 彩子はしばらく下を向いて黙っていたが、やがて怒りの熱が引いていき、重い口を開くに至る。 「見たことの無い男女の二人組だった。一人が銀色の髪をした男で、もう一人が白衣を着た茶髪の女」 白衣という単語を聞いたとき、××の眉尻がピクリと動いた。別に件の人物と面識があるわけではなく、ただ自分と似たような格好をしていることが気に入らなかっただけのことである。 「男のほうが、スタン攻撃を仕掛けてきてかなり危険。女のほうは、手の内はわからなかった。ただ薬品の仕込まれたハンカチを押し当てられたから、危ないことには変わりないわね」 「その人たち、『エリザベート』って言ってたんだよね?」と、××××。 「そうよ。いったい何のことかよく知らないけど、そのことを学校側に教えたら大騒ぎになっちゃって。かといって、みんなは秘密にしていて何も教えてくれなかった。ああもう、思い出しただけでイライラしてきた」 昨日のことを思い出し、再び頭から湯気が出てきた彩子。 これで敵のことがわかってきた。銀髪の男はスタンガンのような異能を持っており、女のほうは超科学者の可能性が高い。「エリザベート」の手先として双葉島に潜入し、中学生二人と×××××をさらっていったのだ。 「助かったわ」×××××は立ち上がる。「あなたのおかげで相手を想像することができた。ありがとう」 「フン。一生懸命な奴はほっておけないだけよ」 「今度I組に来るといいわ。歓迎してあげる」 「死んでもい・や・だ!」 そして×××××は××ら三人のほうを向き、威勢よくこう言った。すっかり気持ちは落ち着いているようだ。 「×××××を奪還するわ。これから一時間、昼食がてら作戦会議よ!」 「そうと決まれば早速行動ですわね」××が不敵な笑みで××××と向き合う。「×××、行きますわよ!」 「うんわかったよ。××ちゃん」 ××××の体が宙にふわっと浮き、くるぶしのあたりが変形を見せる。やがて足の先がバーニアとなり、鉄腕アトムを連想させるような炎が飛び出した。 「ちょっと、それ床燃やさないわよね!」 「大丈夫です。周りに被害は与えません」 ニコッと微笑みを向ける××××。しかし彩子はあたふたして「床が焦げてるじゃないのー!」と絶叫している。 「さあ、いくわよ×××!」 「うんっ!」 バーニアの出力が増大し、二人は窓の外へ飛び出した。そのまま青空に吸い込まれていった。 ×××××らはというと、×××のはしごを使ってベランダから降りるところであった。迅速なペースの連中に彩子はほとんどついていけない。 「ちょ、ちょっとあんたたち」 「彩子って子、本当にありがとう! じゃあね!」 こんこんとハシゴを降りていく×××××。×××はとっくに降りてしまっているのだろう。ベランダから様子を伺がうが、そこにはもう誰もいなかった。ハシゴすら存在していなかった。 「掃除ぐらいしてけー!」 彩子の部屋は散乱した窓ガラスと、土足の足跡で盛大に汚されていた。 「彩子ォ・・・・・・」 そして背後から聞えてきた殺気十分の声。彩子は真っ青になり脂汗を流す。 「さ、幸子姉・・・・・・?」 ドアのあたりに、彩子の朝食を持ってきた幸子がたたずんでいた。口元から真っ黒な瘴気がもくもく溢れており、今にも異能であるマグマを放ってきそうだった。 「てめぇインフルでくたばってるわりには元気じゃねぇか。ガラスぶち破るぐらいテンション高ぇじゃねぇか」 「違うわよ! ×××の奴らが窓からこんにちはしてきて」 「連中は謹慎中だ。彩子てめぇ、幸子様に嘘つくのか」 ボボンとおかゆを運んできたお盆が炎に包まれ、炭になる。彩子は「ひぃいいい」と涙を浮かべて悲鳴を上げた。 「病人は病人らしく床に伏せてもらうぞ・・・・・・!」 「やだ、やめて、助けて」 「人が休暇とって看病してんのに・・・・・・遊んでんじゃねぇやぁ――――――――――ッ」 「××――××――――ッ! いつかブッ潰してやる――――――ッ! あぎっ、ぐふっ、ぐぉえぇえ!」 昼食後、××××は双葉島の中央街にて単独操作を始めていた。 「白のRX7?」 『そう。平たく言えばスポーツカーですわね。ナンバーが袖ヶ浦ですわ』 「袖ヶ浦ね。××ちゃん、よくそこまでわかったね」 『学校を偵察してる×××××が教えてくださいましたの。白い不審なスポーツカーが島内にいるって。そうしたら、今度は×××さんがたまたまその不審車を目撃してまして』 「ありがとう、探してみる」 ××××は携帯電話を切った。ボディに仕込まれた結界サーチを起動させ、辺りの店舗や住宅に目を向けた。 相手は結界を張っている可能性があった。目撃情報が出ているのにも関わらずいっこうに居場所がつかめないからである。 だから××は自分の異能を駆使して××××に結界サーチモードを搭載した。不自然に結界に守られている建物を探すのが、××××の役割だ。目印は若い男女、白い袖ヶ浦ナンバーのスポーツカーだ。 ×××は××のラボで情報収集に励んでいた。×××××も学園に潜入し、動きのあわただしい醒徒会室や風紀委員の様子を偵察している。白い車の情報が得られたのも、こうした地道な活動の結果であった。 なお、アジトらしき建物が風紀委員によって発見されたが、もぬけの殻だったという。元は何かの作業場だったことだろう、部屋の広い空き屋であった。そういった情報も×××××の耳に入ってきた。 そして十四時半ごろ。ついに××××から電話が入った。 『見つけたよ。結界に包まれた倉庫があった。表から見えないようにされてる』 十五時。倉庫があると思われる場所は、ただの広大な荒地であるようにしか見えない。××は専用のグラスを付けて荒地のほうを見る。 「確かに倉庫がありますわね。外から見えないようにされてますわ」 「異能アイテムじゃ構築できない、すごく高度な結界だよ」 「妙ね。連中、結界使えるような仲間がいたの?」 「油断・・・・・・禁物・・・・・・です」 ×××××ら四人はちょうど倉庫の入り口がある場所にまで近づいた。ところがその瞬間、眼前に巨大な倉庫が出現したのだ。×××××は思わず「うぉっ」と口に出す。 「び、ビックリしたぁ。結界を解いたの?」 「××ちゃん、これって」 「クフフ。入ってこいってことですわね。上等ですわ」 四人は倉庫内に入る。入ってすぐ、白い車を発見した。 「袖ヶ浦ナンバーだね。とうとう相手に迫ってきたんだ」 「この車に・・・・・・轢かれそうに・・・・・・なりました・・・・・・ひどい」 「×××××! ×××××、どこにいるの! いたら返事して!」 ×××××の声が倉庫に反響する。そして聞えてきたのは、×××××の声ではなかった。 「よくきたわね、歓迎するわよ」 「えっ・・・・・・」 四人の思考が一瞬にして停止する。その声の持ち主は彼女らにとって全く想像のつかなかった人物であったから。 「×の結界を見破れるなんてね。やっぱりあんたたちならできると思った」 奥の物陰から出てきたのは、長い黒髪を腰の辺りまで下ろした双葉学園高等部の女子――××××であったのだ。もう一人誰かが出てきた。 「もう動いてたんだ。けっこう友達思いなんだね」 ××よりも少し背の低い、目のぱっちり開いた少女。×××××である。 「あ、あなたたち!」 驚愕のあまり××は叫んだ。何と、××××××として学園と共闘した仲間であるはずの××と×が、敵陣にて自分たちの前に現れたのだ! 結界を貼って敵の支援をしたのは×であった。今、双葉学園が血相を変えて調査に乗り出している外部の敵に対し、この二人は付いたとでもいうのか。 「××! ×! これはどういうことッ!」 ×××××が怒鳴り散らす。××も×も苦笑を見せ、必死な形相の彼女を馬鹿にしたような態度でこう言う。 「私たちがあんたたちを追い払うよう、指示をもらったの」 「今、倉庫に結界を貼ったよ。この領域は××ちゃんの攻撃範囲内にある。死にたくなかったらすぐにでも出て行くことだね」 「そんな、どうして・・・・・・」 「暴れたいからよ?」 今にも泣き出しそうな顔をしている××××に、××はそう言ってのけた。 「私ね、ずっとうずうずしていたの。もっと活躍して、暴れて。みんなにこの黒髪や綺麗な鱗粉を見せ付けてやりたかった」 「でもやられちゃったよね、醒徒会に。情けない」 「あ、あなたたち、まだそんなこと言ってるの・・・・・・」 ×××××が呆然としながら××に言う。 信じられなかった。醒徒会に全力で勝負を仕掛けて敗北し、彼らの保護のもとこれまでと変わらぬ学園生活を送れるというのに、まだ××がそんなことを言うなんて。自分たちが声を大にして言いたかったことや、成し遂げたかったことは、あの日に全て出し尽くしてしまったはずであった。 醒徒会は強かったし、今でもこんな自分たちのことを守ってくれる。仲間の大切さや、仲間は絶対に裏切らないということを、×××××は彼らから教わった。そして強硬手段や暴力行為では何も変えられないということを、体を張って教えてくれたのも藤神門御鈴ら醒徒会であったというのに・・・・・・! 「間違ってるわ××! そんなことしても意味がないのよ!」 前へと飛び出し、××に掴みかかろうとする×××××。ところが見えない壁と正面衝突し、彼女は鼻血を撒き散らしながら味方のところへと吹っ飛んだ。 ×がお札を指先に握っている。彼女が結界で×××××を攻撃したのである。そう、この瞬間、彼女たちに走る亀裂が明確なものになったのだ。 「何てことを・・・・・・!」 ××が××と×を睨みつける。××はくすくす笑いながら、痛みで苦しむ×××××にこう手ひどいことを言った。 「あんたがもっとしっかりしてれば、醒徒会の連中も倒せたじゃない?」 「裏切り者!」 言葉を発せられない×××××に代わって、××が怒鳴る。 「裏切り物ぉ? うふふふ、そんなもんでしょ、私たち×は?」 「どうせただの寄せ集めだもんね、××ちゃん?」 ××と×が二人でくすくす笑い合っていたときだった。彼女らの前に一人の人間が立ち、二人も警戒する。強制暗示の異能者・×××××だ。 「そんなことは・・・・・・絶対に・・・・・・許しません・・・・・・!」 右手で前髪をたくし上げ、神秘的な金色に彩られた瞳を露にする。魂源力を解放し、暗示の異能を発動させる。 「間違ってます・・・・・・目を・・・・・・覚まして」 ところが、そうして×××が一歩前に出たのが連中の狙いであった。 倉庫の高い天井から、何者かが降ってきたのだ。これを見た×××××はひどく焦った。 銀髪の美青年。×××が危険を感じて後ろを向いたが、遅かった。 バチンという衝撃音。彼が右手を×××の頭にかざし、力を込めた瞬間、彼女は脳に強いショックを受けて気絶してしまった。 「ふう、危ない危ない。×の言ったとおりこの子は危なかった・・・・・・」 「お見事ぉ。入団テストは合格ってとこねぇ」 手を叩く音が響き渡る。××と×のいるさらに奥のほうから、白衣姿の女性が登場したのである。 ×××××ら三人は悔しそうに下を向いた。暗示という強力な能力を持つ、×××××を潰すことが敵側の作戦だったのだ。×××が一人になって前に出てきたところを、天井に潜んでいたジュンが一気に叩き潰すという作戦だ。××と×はおとりに過ぎなかった。 ××と×が敵側に付いた時点で、×××を狙われる危険性を察知すべきだったのだ。なぜなら××たちが×××××をさらった憎らしい二人組に、自分たちの情報を提供したに違いないのだから。結界まで貼られているのを認めてもなお、××と×を敵として見ることができなかった。そんな自分の甘さを、×××××は強く後悔した。 ジュンが×××を抱えて敵陣に戻る。 「×のおかげで危険を回避できた・・・・・・ありがとう、×。愛してるよ」 ×はそっぽを向いてまるで相手にしていない。ジュンの発言にカチンときたのは、×のほうであった。 「ヒエロノムスマシン操作の××××××××さん。荷電粒子砲の××××××××さん。そして、エントロピー操作の×××××××××××さん。・・・・・・すごい面々ねぇ」 シホが一人ひとりの顔を見ながらそう確かめるように言う。そこまで情報が漏れているのも驚愕に値すべきことなのだが、どうせ××らが教えたに違いない。 「自己紹介しとこうかしら? 私は『クリエイト・クリーチャーズ』のシホ。化物を創る異能を持ってるの」 そのとき、背後から何かが飛び掛ってきた。××と××××が瞬時に反応するが、彼女たちは言葉を失う。灰色をした小型の化物が二体襲ってきたからだ。 「何なの、こいつらッ!」 「××ちゃん気をつけて! はうっ」 瞬く間に××と××××は触手に絡めとられてしまい、二人とも身動きが取れない。 「そして僕はスタン攻撃――『ワールド・フォーリング・ダウン』のジュンさ。エリザベートに言われてはるばる来たよ」 これで×××××たちにとってはっきりとわかった。エリザベートが双葉学園にいよいよ攻撃の手を向けたこと。次に、×××××と×××がエリザベートに奪われようとしていること。それから最後に、××と×がエリザベート側に付いたこと。 「××! ×! あんたたち本当にエリザベートに付く気なの!」 「当然よ。ああ、やっと私、活躍できる場に恵まれたのね。こういうのを待ち望んでたの!」 「私たちがね、島の女の子をたくさんさらっていくんだ。現役生徒の私たちなら適任だね。エリザベート様に気に入ってもらえるよう、頑張らなくっちゃ」 二人は同時に自分のモバイル学生証を差し出した。 「こんな学校、もう興味無い」 ×××××たちに見せ付けるよう、魂源力で学生証を破壊してしまった。 「させない・・・・・・させないわ」×××××は立ちあがる。「私たちは何があっても『仲間』。××、×。絶対に行かせはしない!」 その宣言に、ほんの一瞬だけ××と×が苦悶の表情を見せた。 「×××××も×××さんも渡しませんわ!」 「お願い戻ってきて! ××ちゃん、×ちゃん!」 ××××も、触手に苦しめられながらも必死に懇願する。 「エリザベートなんて知ったこっちゃないわ。みんな渡しやしない!」 ×××××が魂源力を解放し、空気中から水素を強引にかき集めてきた。相手側に水素を充満させてから石を拾い、異能力を込めて投げつける。壁や地面に衝突したときの火花で爆発させるつもりだ。悪の異能者であるジュンとシホは、この場で葬り去らなければならないのだ。 しかし、向かってきた石の直線上に見えない透明な壁が構築された。衝突時の火花で水素が反応し、破裂音が上がる。×がシホやジュンを保護するため結界を貼ったのだ。 「嬉しいわ×××××。これが私たちの答えよ」 ××の髪が魂源力により、天上目掛けて突きあがる。鱗粉が瞬く間に倉庫全域に広がった。きらきらと光る粒子で視界がいっぱいになった。 これに触れれば命は無い。×××××アは××の言動に傷つき、涙をぽろっと零す。 「逃げよう、××ちゃん、×××××!」 命の危険を感じ、××××が両足をバーニアモードに切りかえて緊急離脱を図る。化物の拘束から逃れ、まず××を救助してから、立ちすくんで動けない×××××を捕まえる。 本気で殺しにきた××の鱗粉。取り残されたクリーチャーが二体ともギェエエと叫びながら絶命し、枯れたような醜い姿となっていった。××××の素早い判断が無かったら、××も×××××もこのような死に様を迎えていたことだろう。 「××ぁああああああああああああああああああああああああああ!」 ×××××は叫んだ。涙をたくさん撒き散らしながら。 その番、ジュンとシホは××と×、そして×××××と×××と中等部の女の子二名を運んで島を後にした。 そう、腹を空かせて餌を待ち続ける、エリザベートのいる千葉県へ――。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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【検索用 さにーさいとあっふ 登録タグ 2013年 MightyCorgi UTAU さ てく 曲 曲さ 重音テト】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:MightyCorgi 作曲:MightyCorgi 編曲:MightyCorgi イラスト:てく(piapro/ニコニコ動画) 唄:重音テト 曲紹介 曲名:『サニーサイドアップ』 MightyCorgiの2作目。 歌詞 (動画より書き起こし) 寝ぼけた私を 起こしたのは君なの? ah ah いつも心を満たしてく はじめて見つけた 殻に閉じ込めたのは ah ah 好きだよ 本当の言葉 何気なく過ぎて 取り残されても 気付けば隣に君がいて 伝えたいこと 多すぎて 何から話せばいいのかな 片側だけで夢を見る 詰め込めるだけ詰め込んだ 未熟なままのこの心 Ah サニーサイドアップ 進めることはできるけど もとの姿には戻れないから 聞いてよ この瞬間を 何度も言うよ そばに居たい ふと顔を上げて 見えたのは君のこと ah ah 誰とでも打ちとける君 虚しさ覚えて 物語は風化した ah ah 無理だよ つりあえないよね だけどこの気持ちは抑えきれない 気付けば心に君がいて 変わらず日々は続いてく 私の想いを置き去りに 片側だけで夢を見る 詰め込めるだけ詰め込んだ 未熟なままのこの心 Ah サニーサイドアップ 進めることはできるけど もとの姿には戻れないから 聞いてよ この瞬間を 何度も言うよ そばに居たい 脆くて 小さくて 崩れそな私の心 そう、だからちょっと 背伸びしてつまづいた どうして 素直に笑えないの不思議でしょ 本当の気持ち 抑えこんで もー愛はどこだ 片側だけで夢を見る 詰め込めるだけ詰め込んだ 未熟なままのこの心 Ah これからは 眺めるだけじゃ物足りない 隣に行くよちゃんと聞いてね 笑う横顔 つながる手と心 世界が変わる 音がした コメント 名前 コメント コメントを書き込む際の注意 コメント欄は匿名で使用できる性質上、荒れやすいので、 以下の条件に該当するようなコメントは削除されることがあります。 コメントする際は、絶対に目を通してください。 暴力的、または卑猥な表現・差別用語(Wiki利用者に著しく不快感を与えるような表現) 特定の個人・団体の宣伝または批判 (曲紹介ページにおいて)歌詞の独自解釈を展開するコメント、いわゆる“解釈コメ” 長すぎるコメント 『歌ってみた』系動画や、歌い手に関する話題 「カラオケで歌えた」「学校で流れた」などの曲に直接関係しない、本来日記に書くようなコメント カラオケ化、カラオケ配信等の話題 同一人物によると判断される連続・大量コメント Wikiの保守管理は有志によって行われています。 Wikiを気持ちよく利用するためにも、上記の注意事項は守って頂くようにお願いします。
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「ちっくしょう」 俺は携帯電話に送られてきたいくつものメールを見ながら溜息をついた。 メールはどれもこれも『今日のコンパには参加できません』と言ったような内容ばかりで、つまるところ俺はみんなにドタキャンされてしまったということである。 予約した居酒屋のテーブルに、ただ一人俺だけが座っていた。なんて寂しい状況なんだ。というかこれって新手のイジメじゃね? 大学生になってまでこんな惨めな思いをすることになるなんて思ってもいなかった。あいつら絶対このツケ払わしてやる。 このままここにいてもしょうがないと思った俺は、もう帰ろうと何も注文しないまま席を立った。 「おいそこのあんた。なんだ? ドタキャンでもされたのか? こっちで飲んでいかないか。奢るぜー! ははははは」 すると、隣の席に座っていた俺と同じ大学生ぐらいのニット帽の男が話しかけてきた。既に相当酔っぱらっているようで、大量の空ジョッキを店員さんが困った顔で片付けている。 「いや、俺は別に……」 知らない人といきなり酒を酌み交わせるほど俺はコミュ能力に長けていない。酔っ払いに絡まれるのは避けたいので、このまま通り過ぎようとしたが、 「いいから飲めって。ほら!」 そう言ってニット帽は無理矢理となりに俺を座らせて、ビールを飲ませやがった。 「なにするんだよ!」 「いいじゃないか。居酒屋に来て酒飲まずに帰るなんて罰当たりもいいところだぜ」 「くそ、わかったよ。飲めばいいんだろ」 俺も酒が嫌いなわけじゃない。一杯だけ付き合ってそのまま帰ろう。そう思って俺は残りのビールを一気飲みした。 「あんたも一人で飲んでるのか?」 俺はニット帽の男に尋ねた。広いテーブルに座っているのに一人で飲んでいるなんて妙だ。場所を取り過ぎじゃないか。 「いや、もうすぐ仲間二人が来るんだ。おれだけ先についちゃったから飲んで待ってるんだ。おっと、ほら、来たみたいだ」 ニット帽が居酒屋の入り口に指を差すと、二人の男が入ってきた。一人はサングラスの男で、もう一人はモヒカンの男である。ガラは悪そうだが、ニット帽と同じく俺と同じ二十歳過ぎぐらいだろう。双葉大学の学生だろうか。 「連れが来たなら俺はこれで」 と席を立とうとしたのだが、ニット帽は俺の方に手を回して逃がさないようにしていた。 「おいお前ら、こっちだ。待ちくたびれたぜ。さっさと飲もうや。新しい飲み友達もできたぞ!」 「おお。よろしくなー」 「はははは。今日は吐くまで飲むぞー」 その二人は俺のことを特に気にすることもなく、席について日本酒やら焼酎やら好き勝手に頼み始めた。 「はあ……」 俺は覚悟を決めてこいつらの酒に付き合うことにした。 「がははははは。そりゃねえよ。どんな女だそいつは!」 飲み始めて二時間後、酔いのせいもあるのか、俺はすっかりこの三人たちと馴染んでバカ話に花を咲かせていた。案外こうして話してみると気さくな連中で、結構面白いと俺は思った。 「そうだ、女って言えばよ」ニット帽の男はそう言って生ビールを一気飲みした後、話を続けた。「女と言えばお前らさあ、女のどの部分が好き?」 「どの部分ってどういうことだよ。ヒック」 俺が尋ねると、代わりにモヒカンが答えた。 「そりゃおめえ、女のいいところさ。俺は断然、胸だ。なんといっても女の良さは全部おっぱいで決まるね!」 モヒカンはぼいんぼいんっと胸の前で巨乳を表すジェスチャーをしていた。確かにおっぱいはいい。俺は生まれて二十年、女性のおっぱいなんて母親のしか知らないが、それでもいつか触ってみたいと夢見ている。 「胸かー。いいよな。あのぷよんっとした弾力。あれは女にしかない物だ。見てるだけでも涎が出てくるし、形がいいのは我慢できずにしゃぶりつきたくなってくるね」 サングラスは下品なことを言ってひひひと笑った。しかし今日は周りに女性客もいないので、安心して下ネタだって言えるというものだ。俺もこうしてはめを外した話をするのは久しぶりなのでテンションが上がってきた。俺も話に入って女の子の好きな部分を話す。 「俺はあれだな、おっぱいよりお尻がいい。こうきゅっと締まった感じの」 頭の中で縞々パンツを穿いた女の子のお尻を俺はイメージする。小尻というのはいい。ずっと触っていたり、顔を埋めたりしたくなる。 俺はしたり顔で尻について語っていたが、三人はぽかんとした顔になっていた。 「尻……尻か。わっかんねえな」 「まあ。肉付きのいい尻ならわからんでもないが……」 「小尻ねえ。何がいいのかさっぱりわからん。尻なんか舐めるのも嫌だねおれは」 三人はう~んと唸っていた。なんだかバカにされている気がする。 「じゃああんたはどこがいいんだよ」 俺はニット帽を睨み、酒を呷る。ニット帽は「おれか?」と腕を組み、しばし考えていた。 「そうだな。おれはやっぱり――太ももだ!」 カッと目を見開き、ニット帽は自信満々に言った。 「ふともも?」 「そうだ。女の短いスカートから伸びるあの足。肌は白ければ白いほどいい。柔らかさと筋肉の堅さが生み出す芸術的な曲線。あれほど素晴らしい部分は他にはあるまい」 つらつらとニット帽は太ももの魅力について語った。確かに女子高生の太ももというものは難とも言えないエロさを感じる。変にパンツが丸見えになるよりも、スカートからチラチラと太ももが覗く方がよっぽどそそられるだろう。 「じゃあ俺はうなじがいい!」 モヒカンはニット帽に負けじとそう言った。 「またお前……そんなところいいか?」 「いやあ、骨にそって舌を這わせながら背中の肉を甘噛みしていくのが好きなんだ。たまんねえぜ」 「俺はベタに二の腕だな。特にぽっちゃりしている女の二の腕はいい、最高だ」 「ぽっちゃり系か。ならおれはぽっちゃりした子のお腹がいいな。贅肉だらけだが、たまには味わいたい」 「あーいいなー。久々に女の子とよろしくしたいねー!」 わいわいと三人は盛り上がり、俺もどんどん楽しくなってきた。こうして女性に対しての嗜好を話し合うなんてことはあまりしてこなかった。今日は酒の力もあるが、こいつらと話しているのが楽しくてしょうがない。 こうして気兼ねなくこういう話が出来るのが本当の友達かもしれないと、俺は仲のよさそうな三人組を見つめた。 俺もこいつらと仲良くなりたい。今夜限りの、居酒屋だけの付きあいだけではなく、これからも大学で楽しくやれたらいいな、と思った。 だけどそんなこと直接言うのも気恥ずかしい。こんなこと考えるのも酒の飲み過ぎのせいだろうか。少し頭を冷やそう。 「悪い。ちょっとトイレ行ってくる」 「おーうんこかーうんこなのかー」 「吐くなよ! 絶対吐くなよ! 俺の奢りだから勿体ないだろ!」 「げははは。無茶言うなっての」 三人組の笑い声を背に、俺はトイレへと向かうために席を立つ。すると、居酒屋の入り口から一人の客がやってくるのが見えた。 その客の姿はあまりにも居酒屋という空間に場違いであった。 どう見ても二十歳未満の少女だ。しかも制服姿である。何故か彼女の手には刀が二つ、握られていた。 というか酒のせいですぐに頭が回らなかったが、彼女の顔を俺は知っている。 「あ――」 と俺が言いかけた瞬間、少女は地面を蹴り、凄まじいスピードで駆け出した。その勢いはつむじ風の如くで、目で追うことも難しい。 少女はとんっと跳躍したかと思うと、俺のすぐ後ろの三人組が座っているテーブルへと着地した。 そして男たち三人が反応を示すよりも早く少女は抜き身の刀を閃光のように降り、同時に彼ら三人の首が宙を舞った。 「え? え?」 突然のことに混乱している間に、俺は三人組の首の断面から噴水のように噴き出た血を全身に浴びてしまった。思考が停止してしまう。 「な、なんで……?」 俺は悲鳴も上げることもできずに床に転がった三つの首を見つめた。 だがそこにあったのはさっきまでの人間の顔ではなく、恐ろしい鬼の顔をした生首だった。大きな牙がずらりと並んでいる。 「すまないな驚かせて。だが逃がすわけにも行かずに素早く決着をつける必要があったのだ。許してくれ」 茫然とする俺の肩をぽんと肩を叩いた。少女の腕には『風紀委員』の腕章がある。彼女は風紀委員長の愛洲《あいす》等華《などか》だった。 「こ、こいつらはいったい……?」 必死にそれだけの言葉を押し出すと、愛洲は説明をしてくれた。 「彼らは人食い鬼だ。しかもか弱い女の子ばかりを主食にしていて、全国で指名手配されていたのだ。人間に擬態できるため今まで逃げ延びてきたようだ。もっとも、異能者には通用しない擬態だからな、双葉区で目撃情報があったから風紀委員たちで追っていたのだ。まさかこんなところでのうのうと酒を飲んでいるとは思わなかったが」 もうすぐ応援が来てラルヴァの後処理をしてくれるだろうと言って、愛洲は刀の血をふき取っていた。 彼女の説明を聞いて俺は寒気を感じた。一気に酔いが冷め、嫌悪感だけが湧きあがっている。 そして俺は悟った。 彼らが言っていた女の子の好きな部分というのが、性癖やフェティシズムではなく、ただ純粋に“食べておいしい部分”を楽しそうに語っていただけだったということに。 終 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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世界が変わる日 ラノで読む 踏み出した足が地面を踏みしめ――ずるり、と滑るように崩れた。 もう片足を軸に必死に体勢を立て直す。どうにか踏みとどまることに成功し、俺はほっと安堵の息をつく。 カラカラカラ…と薄っぺらい音が下のほうに駆け下りていくのがおれの耳に入ってきた。どうやら落ちていた空き缶でも踏んでしまったらしい。 山にゴミを捨てる奴なんて死んでしまえ。 腹立ちを呪いの言葉に変えて吐き出す。全く冗談ではない。心の平穏を求めてこんな山の奥まで来たというのにこれでは台無しだ。もしこんな所で転んでいたらどんなことになっていたか。 いやいや、済んでしまった事にいちいち囚われていてはここまで来た苦労が水の泡だ。意識的に気分を切り替え、俺は再び歩き始める。 目的地はそこからそう離れてはいなかったが、さっきのように何か落ちてはいないかと神経を尖らせながらの道のりは予想以上に疲れるものだった。 目的地、といっても特にたいした物があるわけではない。整備された新しい遊歩道ができたことで半ば放棄された双葉山の旧遊歩道。獣道に近いその道の脇にある倒木の切り株、めぼしいものはそれくらいだ。まあ、それこそが今の俺にとって必要なものなのだが。 幹のほとんどを失ったものの、まだ生き続けようと枝を伸ばす切り株。偶然にも椅子代わりとしてちょうどいい高さのそれに腰を下ろし、俺は木々の向こうの空白の空を見上げる。 ここならば周りを警戒する必要はない。緊張を解き放つと、ある意味では職業病である肩こりの感覚が表層に上ってくる。 教師たちは駄目だと言っていたが、ここでなら問題はない。いっそ外してしまおうか。 つらつらとそんなことを考えていたのだが、一つの違和感が思考を断ち切った。 その違和感の方向に顔を向ける。何かの存在が視えた。近くの木の上だ。 …ラルヴァだな。 さてどうしようか、と悩んでいると、こちらに気付いたらしい向こうの方からアプローチをかけてきた。 「…分かるんですか、私のこと?」 「ええと、今普通の人には見えないはずですよね、私」とか慌てた声で呟いている。どうやら普通の人には見えないタイプらしい。まあ、「今」とか言っている辺り普通に人に見えるようにもできるみたいだけど。 「まあね、そういう異能を持ってるから」 『ラルヴァの力や魂源力《アツィルト》を含む広義の生命波動を視覚として知覚できる能力』。この名前が長ったらしい鬱陶しい能力が俺の異能だ。 まあ俺の異能のことはどうでもいい。とりあえずあまり警戒する必要はないかな、と俺は密かに胸をなでおろした。助けに来る正義の味方なんて期待しようのない場所だ。もしもこちらに敵意があるのならまどろっこしいことなどせず襲いかかればいい。 …まあこのラルヴァの声がまるでアニメの女の子のような声なのも一因なのだが。冷静に考えれば声と本質が同じと言う保証などないのだが、どうにもこんな声の相手には警戒心を抱きにくい。 「…見てたんですね?」 「え?」 思わず聞き返す俺。彼女は畳み掛けるように繰り返す。 「私が泣いてるとこ、見てたんですよね?」 「いや、」 「で・す・よ・ね」 駄目だ。どう説明しても聞く耳持ちそうにない。むしろ怒り出すんじゃないだろうか。ここは否定せずに付き合ってやるしかない。 「えっと、何があったのかな?」 「……というわけなんです」 改めて人に見える姿で現れた(もっとも、俺にとっては違いなんてわからないんだけど)彼女の長い話がようやく終わった。「人間性を根底から否定されたんです」との言葉から分かるとおり(『人間じゃなくてラルヴァじゃん』と思ったがややこしくなるだけなのは火を見るより明らかなので突っ込まないでおいた)、かなり感情的になっていた彼女の話は無駄に寄り道が多く簡潔とは正反対のものであったので以下要約してみる。 まず第一に彼女の正体。彼女は自分のことを神と称した。この遊歩道近辺(小っさ!)を守護し、そこを通る人間の中から一定のルールに従って(と大仰に言っていたが、詳しく問いただすとどうやらただキリ番の人間を選んでるだけらしい。何となく損した気がする)その日一日続く幸運を分け与えているらしい。 そう言われてみると確かに先輩から聞いた噂話にそんなのがあったような記憶がかすかに残っている。リアル都市伝説との遭遇ということになるわけだが、生憎とびっくり事件簿のオンパレードなのがこの学園都市島、この程度で驚いていてはやっていけない。というか我が身にのしかかる憂鬱と比べれば全くもって大したことがない、と俺としてはそう思う。 さて、問題の事の顛末だ。数日前のこと、彼女はある人間に幸運の力を与えようとしたのだが(話を聞く限り記憶にない人間だったが、この後の話から見ても相当の変人であるのは間違いないだろう)、にべもなく断られたらしい。 「幸運なんて邪魔なだけだ、帰れ!って言われたんです…」 思い出してまた悔しさがこみ上げたのかさめざめと泣く神さま。胡散臭がられて断られたことはあったにせよ、真っ向から幸運の価値を否定されるなんてことはなかったのだろう。というか俺も理解できない。 「そんならせっかくだし俺も幸運を貰えないかな?」 別に思い出したくもないのにさっき転びかけたのを思い出す。俺には幸運が必要なのかもしれない、その考えがよぎると同時に思わずそんな言葉が口をついて出てきてしまった。 「うーん、私の愚痴に付き合ってくれたあなたにお礼がしたいのはやまやまなんですけど…」 「駄目?」 「はい。ルールは何よりも大事ですから」 「そこをなんとか」 さほどこだわってるわけでもないのに意味もなくむきになってしまうってことは誰にだってあると思う。俺にとって今この時がそうだった。 「でも…」 食いさがる俺に逡巡しつつも再び断る神さま。しかし、むきになった俺はしつこい。 「そいつには断られたんだろ?だったらノーカンってことで」 「そう言われればそうですよね」 ルールはどこに行ったんだ。お前が言うな的な突込みを喉元でようやく押さえ込む。「いきます」と一声を告げ押し黙る神さま。幸運の力を集めてるんだ、というのは俺の眼に如実に映し出されている。 改めて考えてみれば、幸運を与えるというご利益を完全否定されたことで彼女はアイデンティティの危機に陥っていたのかもしれない。その傷を埋めるためにその力を振るい直す理由を欲していたのだとしたら…。 『いじましいじゃないか』 ラルヴァだとしてもぺーぺーだとしても神は神、ただの人間である俺より格が上のはずなのに、その声のせいか全然そんな気にならない。そんな神さまの役に立てたということが、我ながら単純だとは思うが結構嬉しかった。 「ごめんなさい…」 しょぼんとした声が俺の耳を打つ。 「どうした?」 「断られはしましたけどあの人に力は渡しちゃってたわけで…。あれから数日しかたってないしルールに沿った正式な形でもないのでほとんど力をあげられないんです」 「今集まった分って具体的に言うとどのくらい?」 「……硬貨を一枚拾えます。ただし五百円硬貨は除いてです」 うわあ。あまりの微妙さに涙が出てきそうだ。 とはいえプラスなのには違いないではある。それに無理を聞いてくれた神さまのことを考えると「じゃあいいです」とも言いづらい。 「それに、もう一つ問題があるんです」 「それでいい」と言おうとしたのを察したのか、神さまは機先を制してそう告げた。 「確かあなたは異能者でしたよね?私の力は異能と干渉してしまうみたいなんです。ですから私の力が続く今日一日の間、あなたの異能は封じられ」 「もう一度」 「へ?」 「ワンスアゲイン」 「は、はい!」 俺の声に気圧されたのか、上ずった声で了承する神さま。 「え、えっと、私の幸運の力を受けた人間は今日一日の間異能を封じられる…これでいいですか?」 まるで教師の前で自信のない問題を答えられさせている生徒のようだな。天にも昇るような気持ちに浸りながら俺はそんなことを思っていた。 「分かった。問題ない。頼む」 「え?いいんですか」 「早く」 「わ、分かりました!」 大きく背伸びをして天を見上げる。 眼に映るのは木々を覆う艶やかな緑と抜けるような青空。あ、まるで空の塗り残しのような白の雲もあった。 「あのー」 しばらくその景色を満喫していると、そう遠慮がちな声が聞こえてくる。せっかく大事なものをくれた恩人だというのに放置してたのは失礼だった。俺は慌てて声のほうに向き直る。 「何か変わったことはありませんでした?」 はい、あります。とてもでかい変化です。 自信たっぷりな風でいてどこか見たものを心配がらせてしまう瞳。桃のように淡い赤を見せる頬。触るだけで崩れてしまいそうな砂糖菓子のような唇。控えめに自己主張する、肌色の新雪みたいなおでこ。そして、抱きしめたら胸の中に丁度収まるくらいの華奢な体つき。 目の前の神さまがまさかこんなに可愛いとは。急上昇するボルテージに導かれるまま俺は叫んだ。 「付き合ってください!」 「ふぇ!?こ、困ります」 「なんで?」 「わ、私は神、ラルヴァで、あなたは人間なんですよ」 「いやそんなの関係ないしマジで」 そんなのをいちいち気にしてるようじゃ双葉学園の生徒は務まらない。ぐいと身を乗り出すと、彼女は弾かれるように後ろの木に身を隠した。 「それに、私たちま、まだ出合ったばかりだし」 「そこをなんとか」 「ぶ、文通からなら!」 少し、ほんの少しだけ冷静さが戻ってきた。さすがにことを急きすぎた、と木に半身を隠して当惑している小さな神さまの姿に俺の心が反省に満たされる。 「ごめん、いきなり言われても困るよな」 「そ、そうです、はい」 「明日また来るから返事聞かせてくれないかな?もし駄目でも怒ったりなんかしないから」 「あ、はい。分かりました」 彼女はそうこくこくと頷く。その一挙一動がまた可愛い。うん、完全に彼女に参っちゃってるな。 「それじゃ、また明日」 後ろ髪を引かれる思いだったが、彼女のため俺はしばしの別れを告げる。もしこれが今生の別れであっても構わない、それが俺の固い気持ちだった。 「はい。……まだ、自分の気持ちはよく分かりませんけど。…そんな風に言ってもらえて嬉しかったです。ありがとうございます」 訂正。 やっぱりこれっきりなんて嫌だ。 こんないい娘とずっと一緒に付き合っていきたい。 彼女のことを考えると未だに胸の中で思いが嵐の海のように暴れだすが、たった一日の我慢だと言い聞かせ、俺は山道を急いで下っていく。 良く行き来していたこの遊歩道も、今日は実に新鮮な発見の宝庫だった。急なカーブを今までならありえなかった全速力で曲がり、 「うぉ!」 密生する木々の隙間に浮かび上がる街の景色に思わず感嘆の声を上げる俺。まるでお上りさんみたいな反応だが笑わないでほしい。俺にとって、これが初めてまともに見る双葉区の街の姿なのだ。 俺のくそったれな異能、『広義の生命波動を視覚として知覚できる能力』。この能力の「元々の視覚に上書きされる」という性格のせいで俺はこの能力に覚醒してからまともな視覚を失ってしまった。 ラルヴァなどが普通に見える反面、生命のないものは見えないという制約のせいでこんな山奥のような命ないものが勝手に増えたり動いたりしない(はずだった。…またいらんことを思い出してしまった)場所でしか心底落ち着いて過ごすことができない。異能とはギフト、贈り物であり才能なのだとここで教えられたが、俺にとって異能とは災厄に他ならなかった。 ちなみに、さすがにこれではまともな生活を送りづらいとのことでリミッターを作ってもらったのだが、俺の異能が強すぎるとのことで肩がこりそうなほどかさばるのにぼやけた普通の視界と異能の視界の二重写し状態に持っていくのが精一杯。これがまた3D酔いのように気持ち悪くて… そうだ、もうこれ邪魔だ。ふと気付いた俺は背中のリミッターを投げ捨てた。何があっても作動し続けられるよう象が踏んでも壊れないくらい頑丈に作ってるらしいんで一日くらい放っておいても大丈夫だろう。 今にして思えば人生というのは実にバランスが取れている、そんな気がする。異能に覚醒してからの日々は確かに不幸だったが、そのお蔭で可愛い神さまと出会うことができたし、今こうやって眼にするもの全てに対する感動は普通に生きている人には絶対に味わえないものだ。 そう、まだまだこの目で見ておきたいものは星の数ほどある。 この美しい世界を「視る」ことのできるラッキーな一日を満喫すべく、俺は文字通りの意味で軽くなった身体を更に加速させた。 おわり トップに戻る 作品保管庫に戻る